$あれも聴きたいこれも聴きたい
 静謐な雰囲気にあふれた素晴らしい写真を撮影したのは、ハンス・ヨアキム・ローデリウスの奥さん、マーサ・ローデリウスです。「ゾヴィゾーゾー」のジャケ写はクリスティン・ローデリウスでしたけれども、何と二人は同一人物でした。クリスティン・マーサ・ローデリウスです。

 秀逸なジャケットに包まれているのはブライアン・イーノとクラスターの二人、ローデリウスとディーター・メビウスの共演作品第二弾「アフター・ザ・ヒート」です。前作「クラスター&イーノ」とメンバーは同じですが、表記が変ったためにさまざまな憶測が飛び交っています。

 その流れでいけば、裏ジャケットの写真が怪しいです。三人が仲良く写っている写真ですけれども、よく見ると合成写真のような不自然さがあります。三人の輪郭が少しくっきりしすぎているんです。単なる修整の可能性もありますが、ここは謎としておきましょう。

 本作品は前作から1年を経て発売されたもので、前作に比べるとイーノの色が濃くなったように思います。そこに少し隔たりがある気がしてしまいますが、どうやらこの二作品は同じ時期、すなわち1977年6月にコニー・プランクのスタジオで録音されています。

 そうなると、ゲストとして両作品に一曲ずつカンのホルガー・シューカイが参加しているのも全く自然なことです。この人たちのことですから、探せばまだ他にも音源がありそうです。いくらでも曲が湧いてきたでしょうから。制約はテープの長さのみでしょう。

 しかし、二つの作品がかなり異なる表情を見せていることも事実です。まとまった音源からアルバムを切り出す、その切り出し方がずいぶん異なるということなのでしょう。イーノもクラスターもプランクもその辺りの仕事はそれこそお手のものです。

 本作品はイーノ主導の曲を中心に据えたのだろうと思います。それはイーノのソロ作品「ビフォア・アンド・アフター・サイエンス」に入っていてもおかしくないボーカル曲が3曲も含まれていることからも分かります。実際、同作品にはクラスターとの共作が1曲入っていますし。

 ボーカル曲で歌っているのはもちろんイーノで、彼の作品にしばしば出てくる癖のあるメロディー・ラインをフラットな歌声で歌っています。また、最後の曲「ツィマ・ナルキ」ではイーノのソロに含まれていた「キングス・レッド・ハット」のボーカルを逆再生して使用しています。

 だからといってけっしてクラスターの二人の貢献が小さいわけではありません。中にはローデリウス印のピアノが堪能できる曲も収録されていますし、イーノ中心の曲であっても、奇妙なサウンドないしは柔らかで凛としたサウンドが存在感を発揮しています。

 前作からの1年間にクラスターの二人はソロ活動を活発に行うようになっていますし、イーノもアンビエント・シリーズを開始しています。このことが本作品に影響を与えているような気がするのが面白いところです。実際には同じ時期の録音なんですが。

 時系列で並べてみるとその変化を感じられるような気がするのは大変面白い現象です。アルバムとしての最終仕上げ作業に何か関係しているのかもしれません。まあ、余計なことは考えずに、これまた電子音楽の傑作たる本作品を楽しみましょう。

After The Heat / Eno, Moebius, Roedelius (1978 Sky)

*2013年4月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Oil
02. Foreign Affairs
03. Luftschloß 幻影
04. The Shade
05. Old Land
06. Base & Apex
07. Light Arms
08. Broken Head
09. The Belldog
10. Tzima N'Arki ツィマ・ナルキ

Personnel:
Brian Eno
Dieter Moebius
Hans-Joachim Roedelius
***
Holger Czukay : bass