$あれも聴きたいこれも聴きたい 鬼才。奇才ではなくて鬼才。常人の域を逸脱している才能のことを鬼才といいます。人ではなくて鬼です。浮世離れした人に対して使われる言葉です。

 ギタリストのマーク・リボーはほぼ必ず「鬼才」と形容されます。鬼なんです。赤鬼でもなく、青鬼でもない白い鬼です。体がとびぬけて大きいわけでもないですし、鬼瓦のような顔でもありませんが、鬼気迫る力が漲っています。

 このアルバムは、マーク・リボーのユニットによる作品です。ドラムのチェス・スミスとベースのシャハザド・イスマイリーのトリオです。マーク・リボー以外は私は知りませんでした。ニュー・ヨークで活躍するミュージシャンのようです。

 マーク・リボーは、ラウンジ・リザーズやトム・ウェイツなど、ちょっとアヴァンギャルドが入った系統の人々との活動が有名です。ジャンル的にも幅広い人々と共演していて、さすらいのギター男の様相を呈しています。

 マーク・リボーの音楽はジャンル的には一応ジャズに分類されることが多いので、一応テーマは「ジャズ/フュージョン」にしておきました。しかし、セラミック・ドッグのこのアルバムは一言で言えば、パンクです。

 久しぶりにダンスに侵されていない、どストレートなやさぐれたロックを聴いたなあと嬉しくなりました。仕上がりもわざとラフな感触が出るように工夫しているんでしょうね。これは、60年代のガレージ・サウンドから70年代のパンクにつながる、武骨なロックに間違いありません。

 マーク鬼が荒い声で歌っている内容もパンクです。「マスター・オブ・ザ・インターネット」では、ただでダウンロードされて、インターネットの奴隷となってしまった音楽家たちを皮肉っています。マーク鬼はもうすぐ60歳です。このパンクなパワーは凄いです。

 かと思うと「ウィー・アー・ザ・プロフェッショナルズ」なんていう曲もあります。ジャズの名曲「テイク5」のカバーもあれば、歌声喫茶のレパートリーであるファシズムへの抵抗歌「人民よ進め」のへろへろのカバーもあります。自由極まりない。「ブレッド・アンド・ローゼズ」はマイク・チェックしながら歌います。

 リボーさんのギターは、ロックのギター・レジェンドたちの流麗な音というのとは違います。ゆがんだりひずんだり、より生生しいです。一瞬たりとも、安易な位置に定住しようとしない潔さを感じます。そうなると、下手くそな若者が勢いだけでやっていたロックにテイストが近い。もちろん超一流のギタリストなんですけれども。

 経験豊かな腕利きのミュージシャンが集まって、こんなにも楽しげにやりたい放題やっているのを見ているのは楽しいものです。来日公演もきっと楽しいことだと思います。

Your Turn / Ceramic Dog (2013 P-Vine)