$あれも聴きたいこれも聴きたい スペインは紛れもなくヨーロッパにあるものの、いわゆるヨーロッパからは少し外れています。ヨーロッパから見てもどこか異国情緒が漂っている気配がします。それはスペインがイスラム帝国の一部だったからという理由が大きいのでしょうね。

 そういう訳で、ヨーロッパの作曲家たちは、スペインを思っては異国情緒漂う曲を作ります。まるでエジプトやアラビアと同じ扱いです。しかし、そのことが西洋クラシック音楽に厚みをもたらしているのだと思います。

 この作品は、スペインの指揮者アタウルフォ・アルヘンタがロンドン交響楽団を指揮して、スペイン所縁の楽曲を演奏したものです。収められた楽曲は、フランス人エマニュエル・シャブリエの狂詩曲「スペイン」、ロシア人ニコライ・リムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」、スペイン人エンリケ・グラナドスのスペイン舞曲5番「アンダルーザ」、そしてポーランド人モーリッツ・モシュコフスキーの「スペイン舞曲」の4曲です。

 「狂」「奇」「舞」とついているところが異郷のスペインらしいです。いずれの楽曲も陰に陽にスペインの民俗音楽を取り入れていて、全然違う作曲家の作品なのに、そこはかとない統一感があるところが面白いです。皆さん19世紀後半の人々ですから、同じ時代のスペインを題材にしていますし。

 どの作曲家も私にはこれまで馴染みがありませんでしたし、これらの曲を題名と作曲家を意識して聴くのは初めてなのですけれども、どうやら耳に馴染みがあります。おそらくはテレビでよく流されているのではないでしょうか。スペイン紀行はもとより、ニュースやバラエティーでスペインが登場するたびに背景に流される、そんな音楽です。最近は駄洒落ロックが多いですが、昔はたいていクラシックでした。

 この作品は、デッカ・レコードの録音技術の粋を示した作品として名高いです。レコーディングは、有名なロンドンのキングスウェイ・ホールで行われています。日付は何と1956年大みそかと1957年元日ですから、年越しの演奏であったのではないかと思われます。押して押して年を超えたんでしょうかね。

 指揮者のアルヘンタは頭角を現してきた指揮者でした。世界制覇を成し遂げる前、この録音のわずか1年後には不慮の死を遂げてしまいますから、もはや遺作に近い。さまざまなドラマがあるものです。情熱の指揮者としてスペインものには欠かせない人になりかかっていたそうですから、残念です。

 集められた曲は、すべて極めて聴きやすいポピュラー・クラシックと言ってよろしいかと思います。スペインをテーマにした競作と言ってもよい一連の楽曲ですので、作曲者にはどこかに奇を衒おうとする意図があるのでしょうね。そこが軽さを運んできています。要するにポップスですね。バブルガムとまではいいませんが。

 初夏の陽気にはピッタリです。まるでクラシックらしくないジャケットを眺めながら、ぼんやりと聴いていると気持ちがいいです。
 
Espana / Argenta, The London Symphony Orchestra (1957)