$あれも聴きたいこれも聴きたい
 Cのクラスターのデビュー・アルバムです。この作品はまだKのクラスターが存続している時に、コンラッド・シュニッツラー抜きにディーター・メビウスとハンス・ヨアキム・ローデリウスの二人がCのクラスターとして、エンジニアのコニー・プランクと作り上げたアルバムです。

 本作品はメジャー・レーベルであるフィリップスから発表されています。この頃、カンなどが結構売れていたそうで、ドイツの新しい音が来ている、と思ったフィリップスがその音も聴かずにクラスターと契約してしまったのだそうです。案の定これ一枚で契約は終了します。

 その後、1980年に新興レーベル、スカイ・レコードから「クラスター’71」としてレコードが再発され、1996年にはCDも発売されました。ややこしいことにアートワークは全部で3種類あります。そのため、私も長い間、このアルバムが何なのかよく分からないでいました。

 このCDはスカイ・レコードからの再発LPジャケットを使った紙ジャケ再発盤で、このジャケットを描いたのはメビウスです。このジャケットはいかにも後付けの気がします。後のシンプルを絵にかいたようなクラスター作品にこそ似合う絵柄だなと思うわけです。

 その通り、サウンドは後のクラスターの牧歌的な調子とも異なりますし、Kのクラスターの混沌ぶりとも幾分様相が異なります。メビウスは「われわれにとっての影響を強いて挙げるのなら」とヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名前を挙げています。

 とはいえ、本作品がヴェルヴェッツを思わせるかといえばそんなことはありません。「コンセプトを持たないのが、私たちのコンセプトだった」とも語っている通り、全3曲、タイトルもない、明確なメロディーもリズムもない非音楽的とも言える音楽が繰り広げられます。

 まだシンセ登場前で、まるで電気オタクの作業場のような雰囲気で演奏がなされています。使っている楽器はメビウスがオルガンとハワイアン・ギター、ローデリウスがオルガンとチェロで、これをアンプや信号発信機などを使って電気的に処理しています。

 プランクは豚小屋を改造したスタジオに最新機材を揃えていました。この時、お金のないクラスターのために無償でプロデュースを担当しており、それぞれの機材の使用法まで二人に丁寧に教えたのだそうです。勃興する音楽シーンを物語る話です。

 リアルタイムでエコーを調整したり、ディストーションの多寡を調整したりする機材などを使用して、オルガンやギターの音を加工し、テープループも使ってサウンドができていきます。ハワイアン・ギターはヘヴィに処理すると電子音楽らしくなるとはプランクの弁です。

 シュニッツラーは少しでも甘いメロディなどが現れると堕落だと判断してしまう人のようで、クラスターの二人とは方向性が異なりました。この作品はどちらかといえば後のCのクラスターよりもKのクラスターに近いのですが、それでも聴き易くはなっています。

 典型的な電子音が続く作品で、「アヴァンギャルドで重厚な実験電子音の洪水」とされていますけれども、沈み込むようなサウンドではなく、天に向かって伸びあがるようなそんなサウンド風景です。その意味ではやはり後のCのクラスターと地続きです。

Cluster '71 / Cluster (1971 Philips)

*2013年4月10日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. 15:33
02. 7:38
03. 21:13

Personnel:
Hans- Joachim Roedelius : organ, cello, audio-generator, amplifier, hellas
Dieter Moebius : organ, Hawaiian guitar, audio-generatior, amplifier