$あれも聴きたいこれも聴きたい 風貌はまるでマッド・サイエンティストです。フランス生まれの作曲家エドガー・ヴァレーズは、全く新しい音響で現代音楽界に衝撃を与えたとされます。

 それにしてはファンが少ないように思います。しかし、心配はご無用です。ポピュラー音楽界には彼を支持する人がたくさんいます。その代表格はフランク・ザッパであり、チャーリー・パーカーです。他にもキング・クリムゾンやピンク・フロイドのプログレ勢からビートルズまでと多彩です。

 特にフランク・ザッパは15歳の頃、当時ニューヨークに住んでいたヴァレーズに電話をかけています。面会はかないませんでしたが、ヴァレーズからもらったお詫びの手紙は家宝となっているというアイドルに対するような熱狂ぶりです。

 オーディエンスもロックやジャズ好きの人の方が多いのではないでしょうか。ここでのヴァレーズの音楽は私の耳にもよく馴染みます。そもそもザッパ作品と言われても分からないくらい良く似てますからね。

 この作品には、「アルカナ」「インテグラル」「イオニザシオン」の三曲が収録されています。最初の二曲は大オーケストラのための曲です。フランク・ザッパのオーケストラ曲やフリー・ジャズの曲に感じが良く似ています。いわば、オーケストラをいくつかに分割して、それぞれに音を出させてそれを組み立てていったような曲になっています。

 そして、「インテグラル」では途中でラヴェルの「ボレロ」や「オーヴァー・ザ・レインボウ」やストラビンスキーの「火の鳥」に似たメロディーがパーツとして使われています。どういう意図か分かりませんが面白いです。

 「イオニザシオン」は、西洋芸術音楽初の打楽器とサイレンだけのための曲です。ノイズ・ミュージックと解説されていますが、ノイズではありません。伝統的なメロディーやリズムがないだけです。音の表情はまるでフリー・ジャズです。すべては計算されているところが違いますが。

 ヴァレーズは、聴いたことのない音を探し求めました。純粋な音そのものの探求です。後に電子音楽に移行するのも全く自然なことですね。音楽は自由なものですから。

 彼には「現代の作曲家は死ぬことを拒否する」という名言があり、フランク・ザッパがしばしば引用していました。これは、彼が設立した国際作曲家ギルドのマニフェストに書かれています。「死ぬことは退屈した人の特権である」として、この言葉が続き、「作品の公正で自由な発表する個人の権利を確保するために結束して戦う必要がある」としています。とても現代的な人です。

 ズービン・メータは世界に誇るインド人の一人です。彼のヴァレーズは定評があるようです。どちらもフランク・ザッパに近い人なので親和性があるのでしょう。ここでの演奏はとても楽しそうで心が浮き立ちます。

 現代音楽のカテゴリーに入っていますが、ロックやジャズに入れた方がよいかもしれません。とりあえずフリー・ジャズが好きな人は聴いてみられたらいかがでしょうか。作曲家がすべてをコントロールするクラシックと集団即興のジャズが結果的に似かよっていることを発見するのは楽しいものです。

Edgard Varese : Arcana, Integrales, Ionisation / Zubin Mehta, Los Angeles Philharmonic Orchestra, Los Angeles Percussion Ensemble (1972)

メータ版が見つからないので、とりあえずこちらを。