$あれも聴きたいこれも聴きたい
 写真では分かりにくいですが、このCDのジャケットはプラスチックでできています。文字は浮き出たオリジナル通りの成型がなされています。ファーストともども、ここまでオリジナルに忠実にミニチュア版で再発されたことをキャプテン・トリップさんに感謝します。

 「イースター・エッグ」と題された本作品はKのクラスターによる二枚目のアルバムです。成り立ちは前作とほぼ同じです。前半に宗教的な語りが入るところも同じです。スポンサーになった教会からはもともと2枚つくることが求められていた模様です。

 前作の録音が1969年12月、本作品は1970年2月ですから、その間、わずか2か月です。場所も同じで、メンバーもコンラッド・シュニッツラー、ハンス・ヨアキム・ローデリウス、ディーター・メビウスの3人と同じです。ファーストと合わせて二つで一つという人もいます。

 今回も「クラスターは音響の混沌」ですし、「クラスターは自由な即興」です。「クラスターはすべての楽器で音群を作り出す」わけですし、「クラスターは透明性や明瞭性を放棄」しています。使用している楽器も同じくシンセ登場前。その意味では二つに一つでよさそうです。

 しかし、音楽の表情はかなり異なるように思います。前作はどんどこ鳴る低音のビートが大きな役割を果たしており、いわば呪術的な色彩があって、土俗的な雰囲気さえ漂わせていたものです。今作はより都会的になってきた気がします。文明の香りが濃厚です。

 全2曲のうちの2曲目「電子音楽(クラスター4)」では、後のインダストリアル・サウンドそのまんまなサウンドが出てきます。工場の騒音のような響きは、ポスト・パンク時代に登場したドームなどのインダストリアル系のアーティストに影響を与えたものと思われます。

 黎明期の電子音楽にとっては時間の流れは速いです。音響操作における経験値の蓄積は驚くべきものがあったのではないでしょうか。格段の技術的な進歩であるように思われます。前作同様にエンジニアを務めているカリスマ、コニー・プランクの真骨頂でもありましょう。

 より音響そのものに神経が配られるようになったのではないかと推察します。音はますます多彩になってきましたし、ドローン音の味も濃くなったように聴こえます。ぼーっと聴いていると、心が溺れていくようですが、逆に頭は冴えてきます。気分は最高です。

 このアルバムの初回プラスチック・ジャケット盤はわずか300枚しか制作されていません。超貴重です。その後、CDで再発されますが、最初は公式盤ではなく海賊盤が横行するなど、結構ややこしいです。極めつけのキャプテン・トリップ盤は限定800枚です。貴重です。

 Kのクラスターは1971年にライヴ盤を制作しますけれども、そちらは当初シュニッツラーの個人名義で発売されています。そして、同年シュニッツラーは脱退し、残ったローデリウスとメビウスは綴りをKからCに変えて、Cのクラスターとして活動していきます。

 一方のシュニッツラーは、しばらくエラプションとして活動したのち、ソロとして膨大な作品を残していきます。その後、シュニッツラーはKのクラスターを2007年によみがえらせますが、Cのクラスターの二人は参加していません。クラウトロックの重鎮3人の人間模様です。

Osterei / Kluster (1971 Schwann)

*2013年4月7日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Electric Music Und Texte 電子音楽と詩
02. Electric Music (Kluster 4) 電子音楽(クラスター4)
(bonus)
03. Cold Winter 1971 (Kluster-Eruption)

Personnel:
Conrad Schnitzler
Joachim Roedelius
Dieter Moebius
Manfred Paethe : voice
(bonus)
Conrad Schnitzler
Wolfgang Seidel
Klaus Freudigmann