$あれも聴きたいこれも聴きたい ギタリストのソロ・アルバムとなると、ばりばりギターを弾きまくる様子が思い浮かびます。しかし、フィル・マンザネラのソロはこれまでボーカルを主体としたポップなロック調の曲ばかりでした。人の好さを存分に感じさせる内容だったわけです。

 ところが、ロキシー・ミュージックが本格的に解散する直前にほぼ全部を一人だけでつくりあげたアルバムを発表しました。ボーカルはなく、打ち込みのリズムをバックにギターを中心とした多重録音で出来ています。ゲストは1曲だけ、それもジョン・ウェットンのベースです。

 これまでマンザネラは自己主張をあまりしない人のようでした。それが心機一転、このアルバム「プリミティブ・ギター」で彼のこれまでの人生を濃縮してみせました。最初の曲は「クレオール」。幼少期を中南米で過ごした自身のアイデンティティー・ソングでしょう。

 アルバムは「カラカス」、一曲おいて「ボゴタ」と続き、子ども時代を過ごしたベネズエラとコロンビアが表現されます。A面にはほかに、「ラ・ヌエヴァ・オラ」と「リトモ・デ・ロス・アンジェルス」、それぞれ「ニュー・ウェイブ」、「ロス・アンジェルスのリズム」と少年期を表します。

 B面はヨーロッパに戻ってからの青春期。「ヨーロッパ70-1」「ヨーロッパ80-1」に挟まれて、ロキシーのアヴァロン・ツアーでも演奏された「インポッシブル・ギター」と「ビッグ・ドーム」の二曲です。「ビッグ・ドーム」はロキシーの経験でしょう、ロキシーのような曲調です。

 面白いのはそれぞれの楽曲のつなぎです。マンザネラは、特に目的もなくリハ風景や会話を録音し続けていたそうで、その音源が使われています。このアルバムにそれらの音源を使いだして初めて、自らの隠れていた動機を理解したのだそうです。

 そのつなぎの音源の中には、ロキシー・ミュージックの「ボーガス・マン」やイーノの「ニードル・イン・ザ・キャメルズ・アイズ」などのデモ音源などがもれ聴こえてきます。これはどのような機会に録音されたのかという謎解きの興味まであるわけです。

 ジャケットに記載されたマンザネラの言葉では、自分のギター・スタイルを確立する若い頃、ソフト・マシーンのマイク・ラトリッジのオルガンや、チャーリー・パーカーのアルト・サックス、チャーリー・ミンガスのベースのようにギターを鳴らしたいと思ったのだそうです。

 ギタリストからの影響を排除する。そのため、ブルース臭はほとんどなく、時にはギターの音かどうかさえ分からないような音を繰り出すことになりました。そこにラテン音楽の影響も背骨にあるわけですから、彼のプレイが独特であることは推して知るべしということです。

 このアルバムのサウンドは、とてもアナログな打ち込みリズムを背景にした魅力的な曲が並びます。初めてマンザネラのギターを心行くまで堪能したなと思ったアルバムでした。文句なく彼の最高傑作のひとつでしょう。素晴らしいです。

 ところで「クリオール」は、昔、日産のCMに使われていましたから、ご存じの方も多いはずです。ほのかなラテンの香りが、まるで映画のワンシーンのようでした。リズム・ボックスとギターの組み合わせがここまで素晴らしいとは。間違いなく名曲です。

Primitive Guitars / Phil Manzanera (1982 EG)

*2013年4月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Criollo
02. Caracas
03. La Nueva Ola
04. Bogota
05. Ritmo De Los Angeles
06. Europe 70-1
07. Impossible Guitar
08. Big Dome
09. Europe 80-1
(bonus)
10. Criollo (French remix)
11. Frontera (instrumental version)

Personnel:
Phil Manzanera : guitar and other instrument
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John Wetton : bass