$あれも聴きたいこれも聴きたい
「ゴスの極み」と言ってよろしいかと思います。ロックにおけるゴシックあるいは縮めてゴスは1980年代初頭のイギリスのポスト・パンク・シーンに誕生しました。一般的な知名度は低いですけれども、このマスはその最も典型的なバンドといえるのではないでしょうか。

 大たいバンド名がマスすなわちミサのことです。それにこのアルバム・カバーです。クレジットによればエイドリアン・シャーウッドとともにオンUサウンドを作った山本キシコさんの写真が使われています。ダークな処理を施した写真はゴシックの香りがぷんぷんする優れものです。

 この作品の冒頭の曲はバンド名を冠した曲で、前奏にはパイプオルガンを模した音が使われています。そこに、♪涙を流してはいけない。救いは今そこにやってくるのだから♪と、エフェクトを効かせたボーカルが苦悶するように歌います。どうです。見事にゴシック的でしょう。

 マスは4ADレーベルのバンドの一つでした。前身がレマ・レマ、跡継ぎがウォルフガング・プレスというバンドです。出世魚に例えるとハマチの位置にあるバンドだと言えます。マス自体はシングル1枚とこのアルバムだけを残して解散してしまいました。

 LPでは4ADシリーズとして本邦で発売されました。シリーズ中ではバースデー・パーティーと並んでお気に入りです。長らくCD化もされませんでしたが、2005年に4ADから通販限定で発売されるや即完売。最近、倉庫から在庫が見つかったそうで、私もそれを買いました。

 長らく幻のアルバムであったわけです。再発にあたってシングル盤の曲が収められ、マスの全体をカバーすることができるようになりました。さらにジャケットも変更されて、乳首と黒子を足したローマの女神像が襟巻をつけた絵になっています。ここではLP盤を使いました。

 暗黒のゴスっぷりは凄まじいものがあります。その象徴は冒頭の10分近い「マス」です。オルガンから入り、黄泉の国から響いてくるボーカルが歌い上げます。妙に弾まないドラムが弾まないリズムを刻み、ギターがノイズをつけていきます。起承転結をもつ最高傑作です。

 引き続く曲はいずれも同じくダークでおどろおどろしい曲ばかりです。ジョイ・ディヴィジョンやバースデー・パーティーといったポスト・パンク界を支えるスターと並ぶのが通例ですが、私はオルタナの王者ポップ・グループに近いものを感じました。リズム感は全く違いますが。

 なお、ブックレットには当時のギグのポスターが復刻されています。いずれも単色刷りでとってもアートです。対バンはバウハウスやバースデー・パーティー、ディス・ヒート、ディフジャズ、イン・カメラ、米国のタキシード・ムーンなど当時を知る人には垂涎のバンドばかりです。

 マスは西洋の古城の怪奇幻想物語を体現しているようなバンドです。ダークに沈み込んでいくサウンドは過不足なくゴスと呼ばれる音楽のイメージにぴったり一致します。発売当時は英国のインディーズ・チャートにもランクインしましたし、日本発売もされました。

 しかし、その割には知名度は低いです。これは解せません。日本人はこういうサウンドが好きなはずです。私には、ジュネやアランなどの耽美系雑誌、バンドではジル・ド・レエなどとともに思い出される魅惑のバンドです。もっともっと評価されるべきバンドの一つです。

Labour Of Love / Mass (1981 4AD)

*2013年3月21日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Mass
02. Why
03. Ill
04. Why
05. Isn't Life Nice
06. Elephant Talk
07. F.A.H.T.C.F.
08. Cross Purposes
09. Innocence
(bonus)
10. You And I
11. Cabbage

Personnel:
Danny Briottet
Gary Asquith
Mark Cox
Michael Allen