$あれも聴きたいこれも聴きたい 皆さんもよくご存じのインドのスーパースター、シャールク・カーンです。えっ?ご存じないですか?おかしいですね。インドの新聞には彼は日本でも大人気だと書いてあったんですけれども。

 これはシャールク・カーンが主演した2007年の映画のサントラ盤です。題名は、「行け行けインド」とか「がんばれインド」と言うような意味です。大ヒットした映画ですから、この言葉は一躍インドで流行語になりました。

 何度もオリンピックで金メダルに輝いているインドの国民的なスポーツ、ホッケーの映画です。2008年にインドが五輪に出場できなかった時には、この映画をもじって、「ショック・デ・インディア」という言葉が使われました。

 この映画はどんな映画かと言いますと、栄光の男子ホッケーに対し、日陰の存在だった女子ホッケー・チームが予想を覆して、ワールドカップを勝ち進み、ついに優勝してしまうというストーリーです。ひっそり出発したのに、帰国時には国民的英雄だったというお話です。

 そうです。日本女子サッカーなんです。W杯を勝ち進む彼女たちを見ながら、多くのインド・ファンはその姿をこの映画に重ねたものです。決勝戦を見ながら私も歌いましたよ。♪チャック・デ・ジャパン♪。

 予選リーグで一度負けているところ、決勝戦は終盤で2対2に追いついて最後はPKで勝利を収めるところ、そんなところまでそっくりです。その流れで行くと、選手の誰かが佐々木監督を誘惑しようとしたことになるのですが、なでしこの皆さん、どうでしたか?

 当時からW杯の場面はあまりにお約束の展開だという批判がありました。しかし、そんな奇跡を実際に目の当たりにした私たち日本人の中にはそんな批判をする人はいらっしゃらないでしょう。

 さて、この作品は当然のように大当たりしまして、元気いっぱいな主題歌も大ヒットしました。スポーツの試合ではもはや定番です。歌っているのはスクヴィンダー・シン。人気の高いプレイバック・シンガーで、アカデミー賞に輝いた「ジャイ・ホー」を歌った歌手と言えば馴染みが出てくると思います。

 音楽はサリム・マーチャントとスレイマン・マーチャントの兄弟です。通称、サリム・スレイマン。ふたりは音楽一家に育ち、サリムはロンドンのトリニティー・カレッジでピアノを学び、スレイマンはインドの伝統打楽器タブラを学ぶというバランスぶりです。

 インド映画では、中心になる音楽を作る音楽監督のほかに、バックグラウンド・ミュージックのスコアを書く音楽監督がいます。インド以外の映画では普通、映画音楽作家と言えば後者ですよね。サリム・スレイマンはむしろ後者での活躍が多かったように思います。

 しかし、徐々に前面にも進出し、この映画でブレイクしたように記憶しています。とにかく心浮き立つタイトル曲がいいです。まさに「頑張れ、インド」ですね。

 シャールクのファンの方には、「エク・ホッケー・ドゥーンギ・ラク・ケ」がよろしいかと思います。これは音楽に合わせて、シャールク御大が選手を一人一人ラップで紹介する曲です。これはたしか映画の最後で使われたはず。なかなか趣向が凝らしてあります。

 もう一つの注目は、インドのテクノ界をけん引するミディヴァル・パンディッツのリミックスが収められているところでしょうか。さすがにセンスがいいです。

 ところでこの映画には、みんなで歌って踊るシーンは全くありません。インド映画と言えばどれもこれも同じだとは限らないんです。しっかりした作りの見事なスポ根ものもあるんですよ。

Chak De! India / Salim-Sulaiman (2007)