$あれも聴きたいこれも聴きたい
 美女ジャケットで有名なロキシー・ミュージックでしたけれども、ブライアン・フェリーは自身のソロ作品においては、美女の代わりにフェリー自身のポートレートをジャケットに使います。4枚目のソロ「あなたの心に」でも、白いTシャツにサングラスの鯔背な姿でご登場です。

 ロキシー・ミュージックが一旦解散した後、「レッツ・スティック・トゥゲザー」はありましたが、既発曲も多い編集盤であったことから、本作品が実質的には解散後初のアルバムであるとして、世間の注目を集めました。結果は全英5位とまずは順調にヒット作品となりました。

 今回のソロ・アルバムは全曲がオリジナル曲で占められました。一曲のみ途中降板のプロデューサー、クリス・トーマスとの共作曲「ロック・オブ・エイジズ」が含まれている以外はすべてフェリーさん一人による書き下ろし作品です。これまでのソロの慣例は破られました。

 そのため、実質的にはロキシー・ミュージックの新作であるとまで言われましたが、私はそうは思いませんでした。タイトル曲など、ロキシーのアルバムに入っていてもおかしくない楽曲もありますけれども、実際に入っていたらまったく異なる表情になっていたことでしょう。

 バックを支える面々は前作とほぼ同様で、クリス・スぺディングやジョン・ウェットンなど名うてのミュージシャンが参加しています。ブラスやストリングスの活躍も目立ちますし、モータウンっぽい響きもします。ファンキーというにはバタバタしていて妙なのですが。

 楽曲の中で注目されるのはなんといっても「トーキョー・ジョー」でしょう。発表から20年後の1997年に突然、キムタク主演のテレビ・ドラマの主題歌に使用されて、日本でプチ・ヒットしました。ジャパンというよりもチャイナ風のオリエンタルなファンキー・チューンです。

 「トーキョー・ジョー」とは当時フェリーさんと親交が深かった評論家の今野雄二氏のことです。今野氏は歌になったことに少し自慢気ですが、今野氏のロキシー解釈に異を唱える渋谷陽一氏はこの曲を今野氏を揶揄する歌だと解釈していました。懐かしい話です。

 「パーティー・ドール」にも注目です。当時、フェリーさんは私にとってアイドルでしたから、その恋の行方も気になっていました。運命の女ジェリー・ホールはフェリーさんと婚約中でしたが、彼女にとって運命の男ミック・ジャガーとすでに知り合っていたのですね。

 「黒と青はローリング・ストーンズのアルバム『ブラック&ブルー』を意味し、道に迷う写真はそのアルバムのビルボード、即ちサンセット大通りにかけられた大看板のS&M趣味の美女を意味する。フィアンセのジェリー・ホールを思い描いても誤りではあるまい」。

 今野さんによる歌詞の解釈です。渋谷氏が反発するのも分かります。ともあれ、ミーハー的な聴き方がとても似合うのがこの頃のフェリーさんです。知的に読み解くこともできれば、アイドルとしてあがめることもできる。フェリーさんの魅力は重層的です。

 捨て曲なしのアルバムですが、私は「激しく愛してもう一度」が一推しです。後半のベースラインとストリングスは鳥肌ものです。ソロ作品はロキシーに比べるとサウンドの実験は少なく、ゴージャスでスタンダードなサウンドが魅力です。そこは当時少し寂しく思ったものでした。

In Your Mind / Bryan Ferry (1977 EG)

*2013年3月6日の記事を書き直しました。

参照:「無限の歓喜」今野雄二(ミュージック・マガジン)



Tracks:
01. This Is Tomorrow 明日への誘い
02. All Night Operator
03. One Kiss
04. Love Me Madly Again 激しく愛してもう一度
05. Tokyo Joe
06. Party Doll
07. Rock Of Ages
08. In Your Mind あなたの心に

Personnel:
Bryan Ferry
***
John Porter, Paul Thompson, John Wetton, Chris Spedding, David Skinner, Ann Odell, Neil Hubbard, Mel Collins, Chris Mercer, Martin Drover, Ray Cooper, Morris Pert, Frankie Collins, Paddie McHugh, Dyan Birch, Jacquie Sullivan, Helen Chappelle, Doreen Chanter, Preston Hayward, Phil Manzanera