$あれも聴きたいこれも聴きたい
 ワーナー・ブラザーズによるフランク・ザッパ先生に無断で発売シリーズの最後を飾るアルバム、「オーケストラル・フェイヴァリッツ」です。ポジティブに言い換えれば、ゲイリー・パンターによるイラスト・ジャケット・シリーズ三部作の最終章となります。

 発表された順番でいえば、先生の数ある作品の中でも人気の点で一二を争う「シーク・ヤブーティ」と「ジョーのガレージ」に挟まれた作品です。山が高いだけに谷は深く、影は濃いのに逆に薄いという立ち位置です。先生の創作意欲がとりわけ旺盛だった時期でした。

 本作品は、タイトル通りのオーケストラ作品です。とはいえ、後に発表されるピエール・ブーレーズやケント・ナガノという超有名指揮者と組んだアルバムや、ズービン・メータとの「200モーテルズ」などのクラシックというか現代音楽調の作品とは少し違います。

 本作品はこじんまりしたオーケストラとリズム・セクションと記載されているザッパ・バンドとの共演です。先生のギターも活躍していますから、これまでの電子室内楽団の流れをそのまま引き継いで、それをオーケストラに拡張した作品だと言えます。

 音源は、75年9月にロサンジェルスのカリフォルニア大学ロイス・ホールでライブ録音されたものを元にしています。約40名のアブニュシールズ・エムーカ・エレクトリック・シンフォニー・オーケストラによる演奏です。指揮は担ったのはマイケル・ジーロットです。

 このほかにリズム・セクションとして、先生のギター、デイヴ・パーラトのベース、エミル・リチャーズのパーカッション、テリー・ボジオのドラムスがクレジットされています。彼らもオーケストラの一部です。どうやらキャプテン・ビーフハートも一部ゲスト参加していたようです。

 冒頭で「200モーテルズ」の大団円で流された「ストリクトリー・ジェンティール」が再演されます。先生のインスト曲を集めたベスト盤のタイトルにもされた、先生お気に入りの名曲です。アルバム・バージョンは少しロック仕様になっていて、かえって珍しくていいです。

 A面は「ストリクトリー・ジェンティール」から、「ペドロズ・ダウリー」、「ネイヴァル・アヴィエイション・イン・アート」と3曲がひとつながりで演奏されます。中には、先生の他の楽曲の断片が見え隠れしていたりして、謎解きの楽しみも与えてくれます。

 B面の冒頭には「デューク・オブ・プルーンズ」が来ます。これは、二枚目の「アブサリュートリー・フリー」にあった変てこな歌詞の名曲をミニ・オーケストラ・バージョンにしたてたもので、この曲のメロディーの美しさが一層際立ち、素敵なことこの上ありません。

 大トリは先生のオーケストラ作品の中でも野心的な作品「ボーガス・ポンプ」です。他の曲同様に後に再演されますが、この時点ではまだ未完成感が強いです。それだけによりロック的に響いたりもします。この曲にも「200モーテルズ」からの断片が交じりこんでいます。

 収録時間も短いし、今一つ影が薄い作品ではあります。後に本作品を丸々含む超大作「レザー」を聴いた時に、本作品の中の楽曲がより輝いて見えたのも事実です。当時のロック作品と交えて聴くとなお楽しいという厄介なアルバムではありました。

Orchestral Favorites / Frank Zappa (1979 DiscReet) #027

*2013年3月13日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Strictly Genteel
02. Pedro's Dowry
03. Naval Aviation In Art?
04. Duke Of Prunes
05. Bogus Pomp

Personnel:
Frank Zappa : guitar
Dave Parlato : bass
Terry Bozzio : drums
Emil Richards : percussion
Michael Zearott : conductor
Abnuceals Emuukha Electric Symphony Orchestra