$あれも聴きたいこれも聴きたい アカデミー賞では、惜しくも作品賞は逃してしまいましたが、アン・ハサウェイが助演女優賞に輝きました。彼女のことは応援していたので素直に嬉しいです。

 あの舞台をどう映画化するのか楽しみでした。見事に期待を上回る出来で驚きました。俳優陣の歌が生だと聞いてまたびっくり。凄いですね。プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュが最初からこだわった点だそうです。

 キャメロンは、ライブで撮られたミュージカル・シーンを含むアラン・パーカー監督の「ザ・コミットメンツ」という映画を見てから、自分のミュージカルもスタジオで録音することを止めたと語っています。いつかレミゼを生歌でという念願がかなったというわけです。

 私は初めて見たミュージカルがこのレミゼでした。イギリスに住んでいた頃のことです。それからロンドンと東京で合わせて10回近く見ています。最初はロック命の例にもれず、ミュージカルなどバカにしていたのですが、初めてレミゼを見た時に考えを改めさせられたという分かりやすい個人史です。

 映画は文句なく面白かったです。舞台版とは違った魅力に溢れていました。やはり、映画は舞台と違って近いですね。舞台だと一つの作品に観客の一人として参加している感じがしますが、映画の場合は役者さんが近いので、作品対私のパーソナルな経験になります。

 制作陣も、舞台だと最上段にまで声を届かせないといけないけれども、映画では囁くことだってできると語っています。そのことはこのサントラを聴くと余計にはっきりします。サントラが独立の作品として立っていけるようにミックスを変えているそうですが、とにかく歌がすごく近くに聞こえます。

 それにライブの一発録りなので、とても生々しいです。演奏と歌のバランスが歌を際立たせるようになっていますし、隙間を埋めないオーケストラ演奏がいいです。メロディーを歌っているというよりも台詞に節がついている。原初の歌の風景ですね。

 数ある名曲の中でも、さすがにアン・ハサウェイの「夢やぶれて」は凄いです。この綺麗なメロディーの歌がこんなに鬼気迫る胸張り裂ける曲だとは、誰も知らなかったんじゃないでしょうか。ブロードウェイにも出演している本格派だということが良く分かります。

 CDだけ聴いていると映画の半分くらいの感動なのですが、そこは制作陣の思う壺、目を閉じるとアン・ハサウェイが出てきます。電車の中で聴いていて泣きそうになりました。

 彼女の登場シーンはそれほど多くないので、この歌で賞をとったようなものです。音楽賞でもよかったかもしれませんが、それでは彼女がうかばれませんね。

 「マンマ・ミーア」のアマンダ・セイフライドもいいですし、ミュージカルでも定評のあるヒュー・ジャックマンもとても素晴らしい。そうなるとロッカー代表のラッセル・クロウの分が悪いです。全然悪くないですが、まわりがまわりだけにねえ。気の毒でした。

 一方で、かつて「イングランドの薔薇」と讃えられたヘレナ・ボーナム・カーターは存在感と演技力だけで勝負していて、これがまた見事でした。

 舞台版とはそっくりそのままというわけではなくて、音楽もかなり変わっているようです。映画のための新曲「サドゥンリー」もあります。私は舞台版、10周年記念コンサートと2種類のCDを持っているのですが、印象が全然違いますもんね。やはり映画版はとても親密です。

 一家に一枚、ぜひどうぞ。

Les Miserables - Highlights from the Motion Picture Soundtrack (2012)