$あれも聴きたいこれも聴きたい WOWOWで放送中のネオ・ウルトラQで、メラビアンの法則が出てきました。コミュニケーションにおいて言語情報の果たす役割が7%、口調などの聴覚情報が38%、視覚情報が55%というものです。

 そもそもこれは俗流解釈らしいのですが、これを音楽にあてはめると、歌詞の内容7、歌声38、演奏55と何となくもっともらしい感じになってきます。演奏って視覚じゃないじゃんという批判はまあおいておいてください。どうせ俗流の俗流ですから。

 町田町蔵こと町田康はご存知の通り、後に芥川賞をとるほどの文学人ですから、どうしても歌詞に注目が集まりますが、ボーカリストとしてなかなか凄い人です。そもそも艶のある声がいいですし、大阪弁イントネーションが独特の風味を醸し出しています。この歌声に評判の歌詞が見事にあっています。

 さらに北澤組のファンキーな演奏がなかなかいいです。北澤組のリーダーの北澤孝一さんは、打楽器奏者で公式HPによれば、70年代に米軍キャンプやディスコで演奏活動を始めた方です。一時はタレントのバックバンドでサポートも行ったものの自分には向いていないと悟り、日本のマイナーなロック畑が活動の中心になったようです。

 このアルバムでもインドの打楽器タブラを使っていますが、北澤さんはタブラ奏者としても活躍中です。他にも鼓やバラフォンという手作り打楽器などを演奏されています。まさに打楽器に魅せられたマイスターですね。

 さて、町田町蔵+北澤組の結成は89年、この「駐車場のヨハネ」はセカンド・アルバムにあたります。前作「腹ふり」が傑作と評判になりましたが、こちらも負けておらず、その筋では人気の高いアルバムです。

 町蔵さんは伝説のバンドINUで若くしてデビューしていて、当時はパンクばりばりでしたし、本人もパンク・ロッカーとしての自覚があるようです。しかし、その後様式を確立したパンクとはかなり違うので、若い人はこの作品などパンクだとは思わないんじゃないでしょうかね。

 むしろ、正統派のファンキーなギター・ロックです。町蔵さんの歌は矢沢永ちゃんとかじゃがたらのアケミさんの間に並べるとちょうど収まりがよいように思います。かっこいいですね。

 注目の歌詞ですが、大変文学的で文句なく面白いです。ただ、意表をついた言葉がたくさん出てくるので、歌詞カードを見ないとよく分からないところがあります。大たい、冒頭から「麦ライス・湯」ですよ。漢字みないと分からない。私はこの曲が大好きで、特に語りの部分でもろ大阪弁の「首しめられた人」というところがここ20年耳から離れません。

 私は町田康さんの小説やエッセイも好きで結構読みました。しかし、多くの作品群の中で一番印象に残っているのは、CDを包んでいるビニール袋をうまく開けられないという話。今でも輸入盤CDを包んでいるフィルム状のビニールに四苦八苦するたびに町田さんを思います。

駐車場のヨハネ / 町田町蔵+北澤組 (1994)