$あれも聴きたいこれも聴きたい-Brilliant Green _ Blackout 中国人の留学生が「日本人は本当に玉砕が好きですね」と言ってました。確かに少しうまくいかなくなると、抜本的な見直しをしたがりますね。子どもっぽいわけです。少々のことで右往左往したりせずに、我が道を行く大人な対応は日本では珍しいように思います。

 そんな稀有な例がブリリアント・グリーンです。前作から約8年ぶりに発売された「ブラックアウト」は我が道を行く彼らの音楽が堪能できます。残念ながらアルバム発表前にオリジナル・メンバーの松井亮さんが脱退して、今や夫婦バンドとなりましたが。

 彼らはデビューして間もなく大ヒットを飛ばして羽振りがよかったわけです。そんな時に、ファースト・クラスを借り切って海外で豪遊したりするミュージシャンもいましたが、彼らの場合は、しこしこと自分たちのスタジオを作りあげました。富と名声に浮かれることのない姿勢は見上げたものです。

 そうして、このアルバムは自分たちのスタジオで、アナログにこだわって制作されました。今の時代にとても贅沢な話です。立派なものです。ミュージシャンの鑑でしょう。

 この作品には、彼らのルーツである90年代UKロックを下敷きにした楽曲が並んでいます。私はオアシスかなと思っていましたが、ここではブラーの「ソング2」がカバーされています。確かにブラーもしっくり来ます。でもどちらかと言えばオアシスに近いかな。まあどっちでもいいんですが、ここはブラー派対オアシス派で決着をつけなければ気がすみません。

 90年代のUKロックは轟音ギターであり、分厚い音の壁、それに乗っかる美メロというイメージです。80年代くらいまでは、録音技術の制約でどうしても音を重ねすぎると汚くなってしまいましたが、この頃になると重ねても重ねても平気になったと聞いたことがあります。

 ここではミュージシャンはほとんど奥田俊作さんだけです。自宅のスタジオで奥さんと作り上げたわけですから、究極の宅録バンドですね。音を塗り重ねていくそのセンスは大したものです。90年代UKロックの特徴をすべて兼ね備えていて、しかも質が高い。

 ですから特に目新しい特徴があるわけではありません、そこがとてもいいです。ほっとします。制作期間はこれまでのアルバムよりも短かったようですが、すべて新しく書き下ろされた楽曲はすごく自然に練りこまれています。

 川瀬智子さんの歌声も歌詞もトミーに比べると肩の力が抜けています。三者の区別がだんだんつきにくくなってきていると思っていましたが、こうしてブリグリのアルバムを聴いていると、確かにどの曲もトミー・フェブラリーやヘヴンリーのアルバムに入っていちゃいけない感じがします。やはり自然体の姿なんですね。

 私の一押しはシングルにはなっていませんが、二曲目の「ブラック・ダーク・ナイト」という曲です。ハードなナンバーですが、シンプルなメロディー・ラインがかっこいいです。川瀬さんの歌声もいっぱいいっぱいな感じがとても可愛らしくて素敵です。ほかの曲も聴けば聴くほど味が出てきます。

 しかし、私はこのアルバムが発表されていることを知りませんでした。ファンだと言っているのにだれも教えてくれなかったんですよ。結局、入手したのは発表後1年以上が経過していました。昔に比べればメディアへの露出が少ないからでしょうね。とても残念です。 

Blackout / The Brilliant Green (2010)