$あれも聴きたいこれも聴きたい-Tripwire パンクです。インドのパンク・バンド。もうパンクそのものです。

 トリップワイヤーは2002年に結成されたインド初のパンク・バンドです。アメイ、サーガル、アディティヤの三人組、最小編成のバンドですね。

 そして、これは彼らのデビュー・アルバムです。彼らは400ルピーの価値があると発言しています。レートによりますが、当時は3円くらいでしたから、1200円ですね。ただ、実際の売値は200ルピーでした。それでもとても高いです。パンクな値段ではありません。

 インド初のパンク・バンドたる彼らの最初のギグにはお客さんが二人しか来なかったそうです。それほどにインドではパンクが知られていませんでした。

 パンクの誕生は私の青春時代ですから、もう30年以上前のことです。パンクはその後、スタイルを確立して、今やロック界にしっかりと根を下ろしています。誕生当時のインドの音楽シーンは鎖国状態だったからしょうがありませんが、2002年に結成された彼らが最初のバンドということは単にインド人がパンクが嫌いということなのでしょう。ヘビメタはOKでもパンクはだめ。へたくそだからでしょうか。単純すぎるからでしょうか。

 このアルバムはとても懐かしい音がします。パンクにもいろんな流派があるものの、ここで聴かれる音はグリーン・デイなどの現代パンクというよりも懐かしのパンクです。

 パンクの意味の一つに「誰でも出来る」というのがあります。セックス・ピストルズの成功を受けて、アマチュア・バンドが大挙してデビューしましたが、そんなバンドの音です。イーターなんていうバンドもありましたね。さらに言えば高校の友達バンドのようです。

 へたくそな演奏をローファイな録音で聴かせます。実にストレートなパンク。30分ちょっとの収録時間に14曲をぶち込んでわめきちらしています。とてもかわいい。曲名も歌詞も英語で、退屈だとか、海賊版を支持せよとか、うすら馬鹿とか、どれもこれも典型的です。主婦は搾取されているなんて訴えています。

 しかし何事も最初ということはいいもんです。先駆者。他にないもんですから、彼らはインド国内では結構ぶいぶい言わせていました。世界的にみるとどこにでもいるアマチュアバンドと変わらないんですけれどもね。

 このアルバムはそんなわけで、とても楽しいんですが、音楽的には一つ大きな収穫がありました。それはシークレット・トラックで、ラモーンズの名曲「ブリッツリーグ・ボップ」をインド風にアレンジして演奏しています。

 ここではアディティヤはタブラを叩いています。これが、なかなかに面白い風情なんです。他の曲は全部まんま洋楽パンク。実はあまりにいわゆるパンクを忠実にやるより、こうした試みの方がよほどパンクです。

Standby / Tripwire (2008)