$あれも聴きたいこれも聴きたい-Tommy Heavenly _ I Kill My Heart バンドでベースを弾いていた友人がいます。目立ちたがりなので本当はギターがやりたかったんですが、自分よりうまいギタリストがいたために断念したそうです。そんな彼もベースの魅力に目覚めて頑張っていました。

 ベースの方はギターを弾きたいものなんでしょうか。この作品にクレジットされているところによると、音楽監督のベーシスト奥田俊作さんはギターを弾いています。それもかなり弾きまくっています。サウンドはほとんどギター・バンドのそれ。これまでの鬱憤を晴らすようなプレイぶりです。

 トミー・ヘヴンリーの3枚目は、ヘヴンリーとフェブラリー、それぞれのベスト・アルバムが発売された2か月後リリースされました。少しトミー祭りだった頃で、私はどちらのベスト盤も買いましたからお神輿を担いでいたようなものです。

 そんな私でしたが、ここでヘヴンリーが来るかと驚いた記憶があります。お祭りならキラキラポップのフェブラリーだろうと漠然と思っていたわけです。

 このアルバムは、ヘヴンリーの中では最もフェブラリーです。変な文章ですね。サウンドは轟音ギター・サウンドですから、完全にヘヴンリーなんですが、歌い方がフェブラリーに近いと思うんです。正反合の弁証法的展開を経て、ここにトミーのスタイルが完成したということでしょう。

 おまけのDVDには、本作からの二曲、「ウェイト・フォー・ミー・ゼア」と「リーヴィング・ユー」のビデオ・クリップが、ヘヴンリー・ヴァージョンとフェブラリー・ヴァージョンで収録されています。融合を果たしたという私の説もあながち間違いではないですね。

 このアルバムからはシングル・カットがありません。全編、これ轟音ギター・ロック、オルタナというかグランジというか本格的なロックが展開されています。デス・メタル系の歌手が歌っても様になるような曲もあれば、綺麗なギターのポップな曲もあり、よく聴くと起伏に富んでいます。しかし、全体を通して統一感が半端ないため、ロック好きじゃない人にはかえって地味に聞こえることでしょう。

 そういう本格的なサウンドにトミー・ヘヴンリーのカワイイ声が乗るわけで、そこを面白がるんですね。手数の多いドラムスが不思議によく歌に合うなあとか。ボカロによるヘビメタなんていう実験の先達はここにあったわけです。

 ジャケットに写るバンドは、ジェイムズィズと言います。ジェイムズB、M、Jの三人組です。かなりアナクロなロックのイメージを逆手にとった素敵なバンドです。PVでは楽器を操っていますが、少なくともCDでは演奏していません。飾りとしては満点。ゴージャスです。

 そこそこ売れましたが、先達には及びませんでした。やっぱり地味でしたかね。

I Kill My Heart / Tommy Heavenly6 (2009)