$あれも聴きたいこれも聴きたい-Chieftains_Voice of Ages 2012年に結成50周年を迎えたアイルランドの至宝ザ・チーフタンズの記念作品です。結成50年、凄いですね。洋楽だとローリング・ストーンズやビートルズと同期ということになります。日本だと吉永小百合さんが同期ですね。

 メイキング映像を見ていますと、リーダーのパディ・モローニはまるで仙人のようです。自由自在、闊達を絵に描いたような人ですね。何かもう突き抜けた感じがします。御年73歳、最高の歳のとり方ではないでしょうか。悟りとかいうものではなく、風のように自由になっています。

 チーフタンズはアイルランドの伝統的な音楽を追求して、新たな息吹を吹き込み続けるバンドです。デビュー当時は現代風にアレンジし過ぎるとして非難されたこともあったようですね。私などから見れば、十分に伝統を大切にしている音楽だと思うんですが、原理主義者はどこにでもいるものです。

 さて、50周年を記念するこの作品では、まず最初にこれまでの歩みを大切にするということで、最初期のメンバーを呼んで約30年ぶりのセッションが行われました。「チーフタンズ・リユニオン」という11分強の曲で、演奏者が交代にソロをとっていたり、ダンサーがタップを踏んだり、無茶苦茶楽しそうです。

 ポールは、この曲が「アルバム全体の錨になった気がして、まずはひと安心した」そうです。残りは、「といってスティングやミック・ジャガーなどに声をかけて仕上げるってのも、ちょっと違うなと思い、自分の知らない若い世代の音楽家たちに目を向けてみたんだ」ということで作品が仕上がりました。

 子どもというよりも孫といってもいいようなミュージシャンとの共演が続きます。参加しているのは、ボン・イヴェール、ザ・ディセンバリスツ、パンチ・ブラザーズ、リサ・ハニガン、イメルダ・メイ、シークレット・シスターズ、ザ・ロウ・アンセム、ザ・シヴィル・ウォー、ピストル・アニーズ、キャロライナ・チョコレート・ドロップスといった人たちですが、正直、私はグラミーにもノミネートされたボン・イヴェールしか知りません。その他の人々は、今後の楽しみにしたいと思います。

 いろんな音を聴いて、気に入ったミュージシャンを集めたのでしょうね。一言で言えば「新世代のインディ系ミュージシャンたちを起用」しています。実はアデルも参加を希望していたそうですが、スケジュールの都合で参加できなかったということです。

 こうした若いミュージシャンとの共演がとても自然なんですよね。そこに仙人を感じるんです。若者もおじいさんに煽られて生き生きとしています。とにかく楽しそうでしょうがないですね。

 若いころはチーフタンズのような音楽を聞く耳を持っていませんでしたが、晩年のフランク・ザッパが高く高く評価していることから興味を持って聴くようになりました。本当に自由な音楽です。素晴らしすぎます。

 最後の曲は、NASAの宇宙ステーションで、宇宙飛行士であり、フルート奏者でもあるキャディ・コールマンがチーフタンズのフルートとティン・ホイッスルを演奏した音を使っています。曲名は「軌道を回るチーフタンズ」。宇宙ですよ。宇宙。自由すぎます。

 とても幸せになれる音楽です。こういう風に老いていきたいです。

Voice Of Ages / The Chieftains (2012)

(カッコ内はCDジャーナル2012年10月号のインタビューから引用しました。)