日本のロック史はまだまだ整理が足りません。英米のロックについては情報が氾濫していますが、日本のロック黎明期から勃興期に至る情報はあまり整理されていないと感じます。そんな中、NHKが「日本のロック誕生」という番組を放映して気を吐いています。

 これはイエローやらクリエーションやら、日本のロック黎明期のバンドに迫ったドキュメンタリーで、私にとっては大そう勉強になりました。これらのバンドは私よりも世代が一つ上です。この頃の日本のロックのみならず、私と同時代のものもお願いしたいものです。

 吉野大作&プロスティテュートは私と同時代、インディーズ勃興期に活躍した本格派オルタナ・バンドです。70年代前半から音楽活動をしていた吉野大作は後退青年などのバンドを経て1980年にプロスティテュートを結成します。

 発表当時、「いくらなんでもこのバンド名はないだろう」と思ったものでした。名前というものは面白いもので、当時、すでに10年選手だった吉野大作によるボーカル主体のバンドは感覚的には少し前の世代に属する気がしました。名前のまんまです。

 このアルバムは、当時、日本のストリート・バンドを積極的に発掘していた徳間ジャパンから1981年に発表された作品で、長らく入手困難でしたが、バンド結成30年目にしてようやく復刻されたものです。

 帯には「ジャックス+(ジョン・レノン&)ヨーコ・オノ+オーネット・コールマン!!」と書いてあります。気合が入りまくった釣り文句は彼らの音をうまく言い表しています。加えて彼らが日本のポップ・グループとも言われていたと聞けば、彼らの音が想像できるでしょう。

 「僕のバンド、プロスティテュートってインプロビゼーションなんですが、インプロビゼーションって無意識ですよね。だけど、お互いの音がぶつかった瞬間って無意識なんだけど、最終的にはあるべき方向に向かっている、そんな実感があるんです。」

 吉野はインタビューでこう語ります。例えばベースの高橋ヨーカイは日本のロック史にの凝る「裸のラリーズ」出身ですし、メンバーはそれぞれがキャリアを積んだ人ですから、同じ言語をしゃべっていて、目指すものに対する意識は共有されていたのでしょう。

 「硬質でありながら歪んだビート、突き放すように、しかし熱を帯びたヴォーカル、フリーキーに吠えるサックス」が「ギリギリの緊張感がなければ絶対に出せないサウンドを展開している」と評されるサウンドは、むしろ分かりやすいです。

 呪術的と言われることが多い吉野のボーカルはとても端正ですし、演奏はオルタナティヴの典型的な姿に近い。皆が共有している音楽の姿というものを聴き手も共有しているということです。当時のシーを端的に表す音楽だと思います。

 吉野大作はその後も音楽活動を続け、プロスティテュートも何枚もアルバムを発表します。こういう方が地道に活動を続けられるシーンの厚みが日本にもあることが嬉しいです。NHKにはしっかり彼らの活動を整理してほしいものです。

(参照:「パンク天国4」Doll増刊号(遠藤妙子))
updated 2015/2/8

Shinumade Odoritsuzukete / Daisuck & Prostitute (1981 徳間ジャパン)