$あれも聴きたいこれも聴きたい-Lost Gringos 01 あけましておめでとうございます。昨年はこのようなブログを多くの方に読んで頂いて大変光栄でした。今年もほぼ日刊で頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 新春第一弾は、「冗談にもほどがある」と怒り出す人もいるかもしれない作品です。この作品は、ドイツ・ニューウェーブにあほ花をさかせたロスト・グリンゴスの82年のミニLP「日本サンバ」と84年の「トロカ・トロカ」をカップリングしたCDです。キャプテン・トリップさんから2011年に発売されました。

 結構ファンがいるんですよね。そもそもほぼリアル・タイムで日本でも発売されたばかりか、90年にはこれまた日本で編集版CDもリリースされ、そしてこの紙ジャケ再発です。日本での人気の高さを思い知らされます。ニッポンって言っておくものですね。

 ロスト・グリンゴスの音楽は、タンゴからレゲエ、サンバ、その他南米、トルコなど世界中の音楽をごった混ぜにして出来上がった無国籍ワールド・ ミュージックです。彼らの宣言によれば、「音楽的エスペラント」。こういう趣向では3ムスタファ3なんていうグループも思い出されます。元祖エスノ・ポップとでもいうのでしょうか。

 メンバーは、エーバーハルト・シュタインクリューガーとピート・ジギルの二人です。エーバーハルトは金髪のいなたいドイツ人、ビートの方はひげをはやしたアルメニア系(?)です。ドイツのレーベル、アタタックから発表されていますから、そのレーベルの人脈が大活躍しています。仕掛け人はピロレーターでしょうか。

 アートワークもキッチュそのもので、書割の使い方がとても上手です。カリガリ博士の極彩色版とでも言えましょうか。よく見ると周囲にヌード写真が使われているので、アメブロでは削除されてしまうかもしれません。これだけ小さいですから大目に見ていただけると嬉しいです。

 冗談であると一生懸命に主張しているような感じもするのですが、音楽自体からはそういうふざけた感じは伝わりません。とても真剣に艶っぽい演奏が繰り広げられています。演奏はうまいですし。ドイツ人の冗談はとても真面目であるというステレオタイプの民族観をそのままに信じてしまいたくなるような調子ですね。

 そんな中でも本作品の目玉はやはり「日本サンバ」です。ドイツ在住のケイコさんが「歌え、踊れ、騒げ、叫べ、ゆけゆけにっぽんさんば~」と気のない調子で歌う日本語サンバ。途中では牛が「もーぉ」と啼いたりもします。どんな荒唐無稽な内容であろうとサンバのリズムに乗せた途端に聴かせてしまいます。マツケン・サンバみたいなもんですね。サンバ恐るべし。培われたダンス文化の底力を堪能してください。

 さて、ロックやジャズを他の国の人がやっても怒る人はいませんが、こういう形でタンゴやサンバなどをやると「馬鹿にしている」と怒る人がいるのは何ででしょうね。途上国の文化はそのまま純粋培養されているべきだという奇妙な文化的差別主義の表れではないかと思います。

 まあそんな野暮なことを言っていないで、「日本サンバ」を楽しみましょう。私は若い頃、一人暮らしのお部屋で初めてこの曲を聴いて、何だか無性に力がわいてきたのをいまだに覚えています。新春にふさわしい素晴らしい曲です。

Nippon Samba, Troca Troca / Lost Gringos (1982,84)