$あれも聴きたいこれも聴きたい-Clash 03 2012年の締めくくりにふさわしいロックの歴史に残るクラッシュの名盤です。ローリング・ストーン誌による「80年代最高のアルバム」に選ばれました。アメリカでの発売が80年代だったからぎりぎりセーフでしたね。

 クラッシュは76年に結成されました。リーダー格のジョー・ストラマーはパンクのアイコンとして多くの人を魅了しましたが、惜しいことに2002年に亡くなってしまいました。ベースのポール・シムノン、ギターのミック・ジョーンズ、ドラムスのトッパー・ヒードンを加えた四人組はカリスマ的でした。

 このタイトル曲はとにかく背筋が凍るほどかっこいいと思いました。それまであまりクラッシュの音楽が好きではなくて、大して聴いていなかったんですが、この曲で一気に見直しました。そして、このアルバムです。それまでとは見違えるようです。

 しかし、このアルバム以降のクラッシュは認めないという人もいますから、人の受け止め方は様々です。パンクに思い入れが激しい人ほど引っ掛かるんでしょう。このアルバムに収められた楽曲の数々は、パンク原理主義とはほど遠いようにも思えますからね。

 時代はパンクが表現の箍を打ち壊した後、何でもアリの状況となったニュー・ウェーブと呼ばれる時期です。パンクそのもののクラッシュも自ら課した制約を脱して自由を謳歌しています。

 アルバム・カバーが秀逸です。英国の音楽誌「Q」の特別号で、ジャケットに使われた写真がロックン・ロール・フォトグラフの傑作100枚の中の頂点に輝きました。自慢じゃないですが、この号、手元に持っています。素晴らしい写真ばかりです。

 写したのはペニー・スミスという女性写真家で、クラッシュのアメリカ・ツアーに同行していました。この夜はたまたまいつもと違うサイドに立っていて、目の前でポール・シムノンがお気に入りのギターを叩き壊すシーンに遭遇したということです。怖かったので若干ピンボケになってしまったため、ジャケットに使われるのに反対したそうです。かっこいいですね。ロックの何たるかを一枚で表わした写真だと言えると思います。

 しかし、タイポグラフィーにも注目です。これはエルヴィスのデビュー・アルバムを模しています。そうなんです。このアルバムの楽曲群は、クラッシュのロカビリー、ロックン・ロールやレゲエ、スカやラテンなど先達の音楽への愛情と畏敬の念を遺憾なく注ぎ込んだ楽曲ばかりなんです。ロックの教科書ですよ。

 前作とはうってかわって、今回はミックにギターを持たせた男ガイ・スティーヴンスをプロデューサーに迎えました。ケミストリーもばっちりだったんでしょうね。実に伸び伸びとやりたい放題やっています。ゲストにはイアン・デューリーのバンドにいたオルガンのミッキー・ギャラガー、それにアイリッシュ・ホーンズという布陣。彼らがまたいい味を出しています。

 タイトル曲の他にも、重いベースラインが素晴らしい「ブリクストンの銃」だとか、スピーディーな「アイム・ノット・ダウン」とか、くだけた「ジミー・ジャズ」だとか名曲揃いです。2枚組全19曲。息もつかせぬ展開は決してだれることがありません。

 見違えるようなリズム・セクションですし、タイトに引き締まった演奏は最高です。まぎれもなく当時のイギリスの音楽界の頂点に立っていたと思います。

 歴史に残る傑作と言われているわりには、チャート・アクションは実はそれほどでもなくて、イギリスでもトップ10にようやく入ったくらいです。しかし、息長く売れ続けており、世界で500万枚を売ったとのこと。傑作にはやがて売り上げもついてくるということですね。

London Calling / The Clash (1979)