$あれも聴きたいこれも聴きたい-Pooh 03
 イ・プーのCBS移籍後四作目となる「ロマン組曲」です。メンバーがなかなか定まらなかったイ・プーですが、本作品ははじめて前作と同じメンバーで制作されました。このメンバー編成はその後長らく続く不動のメンバーです。ようやく落ち着きました。

 前作「パルシファル」発表以降、勢いにのるイ・プーは立て続けにシングルを発表してヒットさせています。さらに、そのシングルを含むベスト・アルバムを発表して、バンドの人気を継続させるとともに、新作への期待をいや増しに高めています。

 期待の高まる中、前作から1年半を経て発表された「ロマン組曲」は瞬く間にゴールド・ディスクに輝き、半年以上もチャート上位に居座る大ヒットを記録しました。もはや不動の人気といってよいでしょう。アルバムの内容も大物然としてきました。

 まずはとにかく美しいジャケットです。タイポグラフィーもゴージャスですし、何よりも写真が凄いです。リチャード・ハミルトンのようなソフト・フォーカスで撮影された写真にメンバーとともに写る子どもたちは、まるでヴェラスケスの絵画を思わせたりもします。

 しかし、イタリアということでは断然ヴィスコンティでしょうか。見開きジャケットの内側や裏側の写真も含めて凛とした頽廃を感じさせる見事な構成です。隙のないデザインはルチアーノ・タッラリーニという多くのレコード・ジャケットを手掛ける有名なデザイナーの手になります。

 前作は中世の騎士パルシファルという格好の題材を選びながらコンセプト・アルバムではありませんでした。一方、本作品は統一した物語があるわけではないにもかかわらず、アルバムのサウンドは統一感にあふれています。コンセプト・アルバム的です。

 これまでイ・プーのアルバムにはタイトル曲が収録されていましたが、本作品にはありません。原題は「私たちの最高の時間を少々」といった意味合いですから、収録された曲すべてがさまざまな想い出を軸に展開しているようです。それがコンセプトでしょうか。

 アルバムは最初に重厚なオーケストレーションによる「朝やけのプレリュード」で始まり、最後に長尺の「ロマン組曲」を配置して締めくくる見事な構成です。しかも、シングル・カットはありません。アルバム全体を一つの作品として勝負しています。

 イ・プーのオーケストラ路線もここに完成を見たといえます。ジャケットに象徴されるようにこれまでに比べるとより重厚になり、よりクラシック的なオーケストラです。当初からオーケストラを担当しているジャンフランコ・モナルディの仕事もここに極まりました。

 ゆったりした大きなオーケストラの演奏をからめた美しいラヴ・ソングというここ数作の路線が継承され、さらに発展しました。爛熟の極み、とろけてしまいそうな演奏です。内面に落ちていく頽廃的なサウンドであるともいえます。まさにヨーロッパの浪漫が漂います。

 しかし、よく聴くとこれまで以上に泣きのギターやピアノなどが目立ちます。ギターとパーカッションだけの弾き語り風の曲もあれば、マンドリンによる地中海風の楽曲もあります。オーケストラを脱却する萌芽も見られます。それだけ極めた傑作だということです。

*2012年12月27日の記事を書き直しました。

Un Po'Del Nostro Tempo Migliore / I Pooh (1975 CBS)



Songs:
01. Preludio 朝やけのプレリュード
02. Credo 愛を信じて
03. Una Storia Che Fa Ridere 微笑みの物語
04. Oceano 紺碧のロマン
05. Fantasia 愛のファンタジア
06. Mediterraneo 地中海の伝説
07. Elenora, Mia Madre エレオノーラの想い出
08. 1966 君に魅せられて
09. Orient Express 夢のオリエント急行
10. Il Tempo Una Donna La Citta' ロマン組曲(幻想のミラノ)

Personnel:
Roby Facchinetti : vocal, piano, organ, cembalo, mellotron, celeste, moog synthesizer
Red Canzian : bass, violin, guitar, vocal
Dody Battaglia : guitar, mandolin, sitar, vocal
Stefano D'Orazio : drums, percussion, flute, vocal
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Gianfranco Monaldi : conductor