$あれも聴きたいこれも聴きたい-辺見マリ グリコのおまけシリーズ第二弾は辺見マリさんの「経験」です。70年にリリースされた彼女の2枚目のシングルにして、時代の代表作となった作品です。

 70年といえば、私は10歳。マリさんは19歳でした。約10歳の違いですが、とてつもなく深い断絶があります。当時の私からしてみれば、もう熟女でしたね。

 今、10歳の男の子に20歳くらいのアイドルをどう思うか聴いてみたいものです。おそらく当時とは感覚が違うでしょうね。友達のような感覚に近いのではないでしょうか。あっちゃんですからね。少なくとも当時、私には辺見マリのことをマリちゃんと呼ぶなんて思いつきもしませんでした。

 辺見マリは高校2年の時にスカウトされ、自ら軽自動車を運転して上京、浜口庫之助先生のもとでみっちりとしごかれた後にデビューしたということです。車の方はど根性伝説と言えますね。レッスンの方は、昔の歌謡界は今のKポップのような感じだったんだなあと感慨深いです。

 そうして、この曲、「経験」の作詞は加藤和彦の奥さんだった安井かずみ、作曲はアルファ・レコードの設立者にして、荒井由実をデビューさせた村井邦彦。豪華ですね。ナベプロの丁寧な戦略を感じます。

 この歌は、♪やめてぇ♪、とセクシー全開のマリさんがため息まじりに歌うところが大いに話題となり、大ヒットしました。私には大人の色気むんむんに見えましたが、当時の大人はどう見たんでしょうね。若い娘が背伸びしてるとでも感じたんでしょうか。

 しかし、改めて聴いてみると、この歌はとてもよく出来ています。驚きました。彼女はスペイン系米国人と日本人のハーフだそうですが、曲はそのことを意識したのかどうか、ほんのりラテン調です。

 ラテン風のリズムをマリンバですかね、パーカッションが彩っていきます。そこにホーン・セクションがアクセントをつけていく。歌謡曲にありがちな無駄な装飾が一切なく、演奏だけ聴いていても結構いけます。

 そこに20歳前とは思えないマリさんの大人の色気のある歌唱が乗ってきます。はじけた感じはなく、意外に抑えた歌い方です。

 この当時は歌謡曲黄金時代かも知れませんね。伸び盛りの業界の勢いを感じます。

 ところで、辺見マリさんは、このわずか2年後に元祖御三家西郷輝彦と結婚して一旦引退してしまいます。芸能界から遠ざかっていたとは気がつきませんでした。「経験」のインパクトは大きくて、そんなブランクをなかったことにしてしまいました。

経験 / 辺見マリ (1970)