$あれも聴きたいこれも聴きたい-Clash 01 パンクスの中のパンクス、クラッシュのメジャー・デビュー盤です。紙ジャケ復刻盤には大貫憲章さんが書いている発売当初のライナー・ノーツが掲載されています。当時のパンクを巡る熱い思いがほとばしっています。

 ケンショーさんはまず日本は世界にも例をみないユニークな国で、「ぼくら日本人は、ほとんど世界中の音楽を知ることができる」と始めます。情報洪水は情報アレ ルギーを起こし、パンクを嫌いだという人はそのアレルギーの人か、「ロック以外に視点を向けられないというアカデミックとも言える小児性」にかかっている人です。ツェッペリン等を聴いている人はロックにこだわりすぎているが、大事なことは音楽ではなくて「自分が生きていること」です。

 かなり訳が分かりませんが、とにかく熱いです。さらに続けますと、パンクを60年代のビート・グループになぞらえ、音楽上の現象ではないと一吼えし、強烈なライブを礼賛し、メンバーを紹介して、ロンドンはどこまで燃えるかと締めくくります。

 しかし、ケンショーさん、ここまで持ち上げておいて、実はセカンド・アルバムのライナーでは、ここで情報洪水と言っておきながら、パンクのレコードが日本では手に入らないと嘆くのはご愛嬌としても、この作品を「音楽的には乱暴すぎて、いわゆる面白みに乏しい印象」と書いています。うーん。それはちょっとどうでしょうね。

 当時の私は、このライナーに代表される熱い言葉の数々に辟易させられたものです。確かに彼らは「ロンドンは燃えている」と歌っていますが、「退屈で燃えている」んです。怒りの代弁者だとか、抑圧への抵抗だとか、威勢のいい言葉が並びますが、シニカルなイギリスの若者の姿は熱い言葉を費やせば費やすほど、遠ざかっていくように思えたものです。

 話を戻しましょう。パンクのファンジン第一号を発行していたマーク・ペリーさんは、クラッシュが大手のCBSと契約した時にパンクは終わったと言っていました。大手レコード会社以外のインディーズによる流通の仕組みができあがりつつあった時に、パンク最大のスターであるクラッシュが裏切ってしまったということのようです。

 パンクの大きな功績の一つは流通の仕組みをメジャーの独占から解放した点にあります。クラッシュはそれに参加しなかったことで、コアなパンクの人たちの期待を裏切ってしまったということなんでしょうね。

 しかし、CBSとの契約は正解でした。CBSの当時の社長は、パンクの社会的側面にはまったく興味はなかったようですが、プレスリーやビートルズが出てきた時を知っているだけに、この熱狂には何かがあると思ったそうです。そのため、会社の若手社員たちよりもずっと理解があり、録音も、宣伝マンなど入れずに、やりたいようにやらせたということです。

 その結果、できあがったのはこのパンクの熱狂の缶詰です。時代の記録としてもとても興味深いです。77年のイギリスの記録。音楽のエッジはもうここにはなかったのかもしれませんが、さすがに手馴れた音楽業界の人がパンクの勢いをうまくまとめてくれたということでしょう。

 では、この作品がつまらないかと言えば、そんなことはありません。さすがになかなか面白いです。ここにある音楽は後々隆盛を極めるパンクのスタイルそのものです。スピード感、リズム、ボーカルやギターのラインなど、パンクのイディオムを確立したと言ってもいいと思います。グリーンデイまで一直線。

The Clash / The Clash (1977)