$あれも聴きたいこれも聴きたい-Philip Glass 映画「コヤニスカッティ」をご存知でしょうか。83年に公開された映画で、映像と音楽だけで台詞などは全くありません。都市や自然の風景だけで構成された実験的な作品で、日本でも一部で大きな話題となりました。単館上映でしたね。私も見に行きました。ちょっと退屈でしたが。

 その音楽を担当したのがフィリップ・グラスです。そういうわけでしたから、現代音楽の作曲家の中でも彼の名前はとても有名になりました。私もそれで知った口です。

 彼自身はミニマル・ミュージックと呼ばれることを嫌っているそうですが、短い音のパターンを繰り返す音楽を指すこの言葉はどう考えても彼にぴったりです。

 グラスは子どもの頃から音楽教育を受け、ジュリアード音楽院を出たばりばりの音楽家です。しかし、現代音楽の巨匠シュトックハウゼンの曲を演奏しても「楽しくない」ので、こんな音楽をこれ以上書いてもしょうがないと思うようになり、音楽を変えたいと思いました。

 そこで出会ったのが、インド音楽の巨匠ラヴィ・シャンカール。彼と仕事をしている中で、音楽を分けていって楽譜に書くのではなく、リズムを中心に構成する方法があるということを学びます。そうして、演奏家でもある作曲家と交わりを続け、北アフリカやアジアを旅してニューヨークに戻ります。そこでまたまたインド楽器タブラの巨匠アララカに師事して自分のスタイルを築き上げることとなりました。

 彼が知名度を上げるのは76年に書かれたオペラ「浜辺のアインシュタイン」です。そうして、その後も、オペラや舞台の音楽を始め、精力的な活動を続け、今日に至ります。この作品は、82年に初演された舞台の音楽です。彼の歴史からすれば比較的初期の作品と言えると思います。

 エドワード・マイブリッジはイギリスの写真家です。彼が有名なのは、このジャケットにもある通り、連続写真を初めて撮ったことです。写真創成期ですから、それはそれは画期的なことでした。この写真のおかげで馬は走っている時に四本の脚が全て宙を舞っている時があることがわかったんです。

 私は、写真が大好きで、世界写真全集なんて見ていたものですから、マイブリッジの名前はよく知っていましたが、彼が殺人事件を起こしていたとは知りませんでした。奥さんの愛人を射殺したものの、正当防衛で無罪となるという昔っぽい出来事です。しかし、妻が亡くなってからは妻と愛人との間の子を養っていたそうですから、見上げたものです。

 この作品は、そのマイブリッジの生涯を舞台にした作品です。オランダのディレクター、ロブ・マラシュとグラスによって構想されたもので、1982年、オランダのベアトリス女王ご臨席のもとで初めて上演されました。劇というよりもダンスなんですかね。

 三幕の舞台ですが、CDには4曲が収められています。そのうち、第一幕は女声ボーカルによる短い曲です。そこそこの出来のポップ・ソングですかね。芸術音楽の人がボーカル曲をやるとそうなるっていう感じです。そのインスト・バージョンも入って2曲、残りの二曲が本領発揮のミニマル・ミュージックです。ストリングスやホーン、電子オルガンやコーラスがリズミックなパターンを繰り返していきます。

 比較的淡々と流れるのですが、それが気が付くとどんどん盛り上がっていきます。そこがとても気持ちが良い。実際の舞台はどんな感じだったんでしょうね。見たいという気にさせてくれます。

 今日、通勤電車の中でも聴いたのですが、これはもうぴったりですね。余計なことを考えずに、リズムに身をまかせるというのは何とも言えない気分です。大発見でした。快楽のための音楽。
 
The Photographer / Philip Glass (1983)