$あれも聴きたいこれも聴きたい-Eric Dolphy 先日、大学時代の同級生と飲みに行きました。彼は、ピアノ弾きでもあり、学生時代にはジャズばかり聴いていた人です。その彼が、今はジャズをあまり聴かないというので、理由を尋ねたところ、「ジャズは50年代までにアメリカで完成されていて、もうそれを超えることはできないから」という事だそうです。

 クラシックもベートーヴェンで尽きているという人もいますし、ロックもストーンズまでなんていう人もいます。クラシックもジャズもロックも盛りを過ぎた音楽だということなんでしょうかね。

 私はその意見に全面的に賛成するものではありませんが、こうしてエリック・ドルフィーの名盤を久しぶりに聴いてみますと、彼の意見にも心動かされないではありません。だって最高じゃないですか、このアルバム。

 このアルバムは1961年7月にニュー・ヨークのファイブ・スポットで行われたライブ演奏を収録した名高い名盤です。続編も出ていますが、私はこちらが好きです。メンバーは、バス・クラリネットとアルト・サックスのエリック・ドルフィー、トランペットのブッカー・リトル、ピアノにマル・ウォルドロン、ベースにリチャード・デイヴィス、ドラムにエド・ブラックウェル。クインテットですね。

 少しざわざわした客席に、ウォルドロンのピアノに続いてドルフィーのサックスが轟く「ファイアー・ワルツ」の冒頭部分。これは最高ですね。私はここでジャズの醍醐味を思い知ることになりました。腹の底から伸び上ってくる音。凄くないですか。

 またブッカー・リトルのトランペットがいいです。この二人の掛け合いは素晴らしいと思います。残念ながら、リトルはこの演奏のわずか3か月後に23歳の若さで亡くなりました。何という損失でしょうか。ドルフィー自身も38歳で亡くなっています。他にもチャーリー・パーカーやクリフォード・ブラウンなど、当時のジャズマンは早逝した人が多いです。

 裏ジャケットに記載されたリトルの言葉、「音に間違ったものがあるということは考えたこともない。」、「ただ単に正しい音を出すよりも、エモーションを表出させる方がより印象的な演奏になるからね」、というのはいいですね。ここには、不協和音の可能性をしっかりと捕まえた自由があります。

 ライナーから引用すると、ドルフィーは「リズム・セクションは本当に素晴らしかった。3人がみなそれぞれに個性的だったし、だれもが残りのメンバーが何をやっているかに敏感だった。しかもそれでいてバランスが取れていたんだ。それにブッカーときたら...」と語っています。

 気持ち良く演奏できたんでしょうね。しかし、緊張感は半端ないです。聴いているこちらが不安になるような緊張感です。そこがいいんですね。やはり、こういう演奏は超えられないのかもしれません。

Eric Dolphy at the Five Spot Volume 1 / Eric Dolphy with Booker Little, Mal Waldron, Richard Davis, Eddie Blackwell (1961)