$あれも聴きたいこれも聴きたい-Chakra チャクラと言えば、少年ジャンプの大人気漫画ナルトを思い浮かべるかもしれませんが、もともとはサンスクリット語です。ヨーガや仏教ではおなじみの言葉で、まあ東洋医学で言うところのツボみたいなもんです。お叱りを受けそうですが。

 さてさて、ご紹介するチャクラは、日本のニュー・ウェイブ時代に活躍したバンドです。バンド自体の活動期間は短かったですが、メンバーはそれぞれその後も長く活躍されています。そういう意味では有名なバンドですね。

 しかし、今、ぱらぱらっとウェブを見てみますと、驚いたことにウィキペディアのエントリーがありません。一方で、このアルバムのアマゾンでの評価は極めて高いです。わずか7人とはいえ、全員が満点ですよ。不思議な人たちです。

 彼らは活動している時から、少し立ち位置が変でした。当時、私はニュー・ウェイブに入れ込んでいて、黎明期のインディーズ漁りをしていました。いわばピューリタンだったわけでして、チャクラのような業界ニュー・ウェイブは冷ややかに眺めておりました。

 それは、まあ個人レベルのことですが、当時のメディアでも、たとえば戸川純さんや一風堂などの業界ニュー・ウェイブとも少し違う扱いだったように記憶しています。長くもやもやしていましたが、今回、再発盤のライナーを読んで謎が氷解した気になりました。彼らはナベプロに属していたんですね。植木等を擁する大手プロダクションです。業界ど真ん中です。すっきりしました。

 すっきりしたところでチャクラです。このバンドはギターの板倉文さんとぶっ飛びボーカルの小川美潮さんの二人を中心とするバンドです。このアルバムでは、後にリゲインの「勇気の印」という大ヒットを飛ばす近藤達郎さんとYMOのローディーをやっていた永田ドンベイさんを加えた四人組です。

 チャクラは3枚のアルバムを残しますが、これが二枚目。アルバムごとに随分音が変わります。これが一番聴きやすいのではないかと思います。プロデュースというか制作協力は細野晴臣さんです。YMOの「BGM」の時期ですね。

 小川美潮さんは戸川純さんと並ぶニュー・ウェイブの歌姫でした。アイドル的な人気がありましたね。まだ若かったですし。若い女性らしい声で、頑張って歌っています。わざと音をはずしたり、ふざけたり、怒ったりとやりたい放題です。

 曲は1曲近藤さんですが、残りはすべて板倉文さんが作っています。一言で言えば、アヴァンギャルドな傾向があるポップです。ライナーノーツを引用すると、「フランク・ザッパ、フレッド・フリスなどに傾倒するメンバーの前衛傾向が、グループに独自の進化をもたら」したということです。

 どういうところに顕著かと言えば、「III」では、新宿の高層ビル工事現場で録音したノイズをループにしていたり、「微笑む」では5拍子で唄ったり、「いとほに」では「はにほへといろは」の音階を歌ったり。歌詞もみゅんみゅん言ってるだけだったり、純文学だったり、「ちょっと痛いけどステキ」だったり。

 それを細野さんが監修して、当時のニュー・ウェイブ・サウンドに流し込んでいるような感じです。懐かしいんですよねえ、特にビートの感覚が。

 当時は冷ややかな目で見ていましたが、久しぶりに聴いてみるとなかなかいいです。狭量でしたね、私は。まあ、もともとは、ワハハでの小川美潮さんのボーカルの一節、♪だから、わっはっは♪が強烈にかわいいと思っていたんですけどね。いまだに忘れませんから。

さてこそ / Chakra (1981)