$あれも聴きたいこれも聴きたい-Bombay Dub Orchestra つい先日、オバマ大統領が人前でミャンマーと言ったと話題になりました。アメリカはまだ公式にはビルマしか認めていないそうです。ですから、ヤンゴンもまだラングーンです。

 インドはミャンマーと違ってアメリカと仲が悪いわけではありませんから、問題なくムンバイです。95年に改名して以来、すっかりボンベイではなくムンバイになりました。同じようにマドラスもチェンナイに代わりました。ボンベイを使う人はいまだにいますが、マドラスはとんと聞かなくなりましたね。

 ボンベイという名前は文化面ではまだまだ使われます。このボンベイ・ダブ・オーケストラはその一つです。しかし、これはインドではなく、旧宗主国イギリス人のプロジェクトです。インドの映画音楽に使われる独特のオーケストラにほれ込んだサウンド・プロデューサーが、インド人を大量に動員して制作した作品です。

 表題の「3シティーズ」は、ムンバイ、チェンナイ、ロンドンの三都市を指しています。ムンバイとチェンナイで、インドのオーケストラと様々なミュージシャンを録音し、ロンドンでさらに音を加えて完成させています。ただ、チェンナイは全11曲中1曲だけです。中心はボンベイですね。

 ライナーを書いているサラーム海上さんによれば、インドのオーケストラの特徴は、「インド古典音楽には元々構造和音がなかったため、オーケストラもユニゾンが主体」となること、「インドの音階は西洋の平均律のような固定された音ではなく、一つ一つの音の高さが流動的で、一つの音を鳴らすにもガマカと呼ばれる、コブシのような微分音の装飾音を用いる」ことにあります。

 とても分かりやすい説明です。だからピアノははやらず、弦楽器なんですね。納得しました。そんな音楽を小編成で音響の悪いスタジオで録ると、あの映画音楽でおなじみの奥行きのないサウンドになるんですね。これはこれで味があるサウンドです。

 このアルバムではムンバイとチェンナイのオーケストラが大活躍しています。しかし、インドの昔の映画音楽のような音を期待すると全く外れてしまいます。だって、音が割れていませんからね。不思議な雰囲気ではありますが、とても綺麗な音になっています。

 そのオーケストラに加えて、地元のミュージシャンやイギリスのミュージシャンが様々な楽器で参加しています。中には、ウードやロシアのツィターまであります。大たい冒頭の曲が「エジプト・バイ・エアー」ですからね。このアルバムのサウンドは決してインド原理主義ではありません。

 何曲かはボーカル入りです。そのボーカル曲を中心に、原理主義ではないとはいえ、インド音楽の香りが漂ってきます。

 バンドのコンセプトは「インド映画音楽オーケストラによるチルアウト・アルバム」というもので、全体にゆったりと流れるアンビエントなサウンドが耳に心地よいです。映像が浮かんできますが、アジア的な猥雑さはなく、天上の音楽のようです。素敵です。 

3 Cities / Bombay Dub Orchestra (2008)