$あれも聴きたいこれも聴きたい-Terry Riley 03
 テリー・ライリーの「シュリー・キャメル」は私にとって忘れられない作品です。学生時代に出合って以来、今に至るも頭の中に鎮座しています。これほど純度の高い音楽があったでしょうか。私の音楽観はこの作品によって大きく変わったものと思います。

 本作品は、コンピューターのディレイ操作ができるように手を加えてあるものの、それ以外はいたって普通のヤマハのオルガンをひたすら演奏したものです。ライヴと書いてはありますが、マルチ・チャンネルでの録音ですからライヴ演奏が重ねられているということでしょう。

 「シュリー・キャメル」は1975年にドイツのラジオ・ブレーメンから委嘱され、翌年初演された後、2年をかけて完成しました。ただ、曲想自体は1970年にライリーが北インドの音楽を学び始めた頃に遡ることができるとのことです。タイトルからしてインドの雰囲気が濃厚です。

 ヒュー・ガードナーなる人は、ライナーノーツにて「一言で言えば、テリーは東洋音楽のフィーリングを、西洋(もしくは、この場合は日本)の音楽素材と未来的な技術でとらえることに初めて成功した」と書いています。日本と言うのは楽器がヤマハだからですかね。

 インド的な音楽ではあるものの、確かにしっかり聴くと西洋の音楽話法には違いありません。東西の折衷をライリーが体現したことを指して、前人未踏だとするのがガードナーの見解です。現代音楽の作品らしく分析的な見解が述べられています。

 しかし、私は昔持っていた国内盤LPの解説の方が好きです。かなりうろ覚えなので、知らないうちに盛っているかもしれません。あらかじめ断っておきます。それはライリーが本作品をライヴで演奏した場に居合わせた方による体験記でした。こんな感じです。

 野外にあるすり鉢状のコンサート会場。すり鉢の底でライリーがオルガンによる即興演奏を続けている。時は夜。はからずもうとうとしてしまう。ふと目覚めると、夜は白み始め、あたりには乳白色の霧が立ち込めていた。ライリーは霧に隠れ、音だけが霧の底から聴こえてきた。

 どうです。これ以上ない情景です。あまりに出来すぎていて、私がいつの間にか作り上げた話ではないかとさえ思います。かなり勝手に脚色している気がしますが、このアルバムを聴くたびに霧が浮かんでくるようになりました。ぜひとも現場にいたかった。

 ライリーのサウンドに耳を傾けていると、魂は洗われ、悟りの境地に達してしまいそうです。いわゆるアセンションです。すべてが相対的な世界にあって、絶対の世界に触れたような気にさせてくれます。インド哲学とは離れていってしまうのですが。

 この作品は、お香を焚きながら、心を鎮めて、耳を傾けるとよいです。ただし、姿勢は自由。寝転がってもいいし、眠ってもいい。出入りも自由。そんな気持ちで聴くのがよいと思います。とにかくピュア。何の夾雑物もないサウンドが天から降ってくるようです。

 その意味ではとてもスピリチュアルな作品で、私の魂の中に大きな位置を占めている作品です。身体の内側から浄化してくれるデトックス効果が抜群です。とにかく美しくて深遠。身体全体が反応する音楽です。この世の中の最も美しい音楽の一つだと思っています。

Shri Camel / Terry Riley (1980 CBS)

*2012年11月21日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Anthem Of The Trinity
02. Celestial Valley
03. Across The Lake Of The Ancient Word
04. Desert Of Ice

Personnel:
Terry Riley : Yamaha YC-45-D electronic organ