$あれも聴きたいこれも聴きたい-タモリ 森田一義さんのデビュー・アルバムです。

 私はレコードからCDへの移行時期に愚かにも千枚以上持っていたLPを3枚だけ残してすべて売り払ってしまいました。またLPレコードが見直されている今、ばかなことをしたものだと情けなくなります。

 残した3枚の中の一枚が何とこのLPです。まさかCD化されないだろうと思って残したのですが、あっさりとCD化されてしまいました。おまけに紙ジャケにまでなる始末。とても喜ばしいことですが、心は複雑です。

 この作品は、音楽も入っていますが、中心はタモリのネタ、ネタ満載の作品です。最近ではこういう形態の作品はあまり見ません。昔の落語や漫才はかろうじて売っていますが、最近のお笑いの人はCDではなくて、DVDとなりますね。

 しかし、音だけの方が、たとえネタ集であっても反復性が高いですし、ラジオも健在なことを考えあわせますと、みんながみんな映像つきである必要はないと思いますが、とにかくDVDにいってしまいます。音だけだとなんだか損した感じがするからでしょうか。そんな中、綾小路きみまろの成功はまぶしいです。

 それはともかく、この作品は何度聴いても結構面白いです。私は、今の脱力したタモリさんも大好きで、「タモリ倶楽部」は毎週欠かさず見ています。しかし、この頃のちょっとアングラなジャズ・タモリの魅力はまた格別です。

 ネタの中には、世代を選ぶものももちろんあります。たとえば、美濃部元東京都知事や、田中角栄元総理、寺山修司、横井庄一の物まねは、彼らをリアルタイムで知っている私の世代くらいじゃないと面白味は分からないでしょうね。いかにも彼らが言いそうなフレーズ満載なんですよね。ラジオのネタもBCL世代でないと。今やBCLって知らない人のほうが多いでしょうね。

 一方で、アメリカ人コメディアンの日本人ネタや、農家に嫁いだ嫁の投稿「お昼のいこい」などは、時世ネタなのに、時代が下ってもいまだに変わらず有効だったりして、面白いです。

 さらにまったく時代にかかわらない普遍的なネタも多い。とても音楽的な、教養講座「日本のジャズ史」とアフリカ民族音楽「ソバヤ」は私のジャズ観を決定付けました。さらに全編を覆うハナモゲラ語のありようは、ジャズの精神の神髄だと思っています。

 しかし、何と言っても極め付けは、ベトナム人を知った今となっては昔より面白く感じる四カ国語麻雀です。これは、もう何回聴いても面白い。天才としか言いようがありません。言葉もまるで音楽のように聞こえてきます。

 やはりタモリさんの体に流れているのはジャズの血でしょうね。ネタの成り立ちやらギャグのセンスやら、決してロックではなく、ジャズです。お笑い界はビートたけしやダウンタウンなど、ロック的な人が多いのに、タモリ一人ちょっと違います。当時のタモリさんは、ジャズのちょっとクールでアウトサイダーな魅力を体現していました。

 ジャズの匂いの濃い作品です。  

タモリ / タモリ (1977)