$あれも聴きたいこれも聴きたい-Sparks 04
 今では「アンガスト・イン・マイ・パンツ」とされていますが、発売当初は「パンツの中の用心棒(ゾウさんの悩み)」と邦題がついていました。あんまりです。スパークスはいじってよし、という申し合わせがあったとしか思えません。「ゾウさん」はないでしょう、象さんは。

 しかし、本作品のジャケットやシングル・カットされた「アイ・プレディクト」のMVを観れば、レコード会社のスタッフがスパークスをいじってよいと考えたとしても責められません。スパークスは常識外れです。お兄ちゃん、そこまでやるかという狼藉ぶりです。

 中途半端は嫌とばかりの迫真の演技です。恐ろしいことに、「綺麗だな」とちらりと思ってしまいました。ヒットラー髭が生えていても、真剣に女装してストリップを踊れば美の女神は降りてきます。MVの監督はエレファントマンのデヴィッド・リンチ説があります。えっ、象さん?

 本作品はスパークスの11枚目のアルバムです。久しぶりに前作から日本盤も発売されるようになっていましたので、私も発売されてすぐに買いました。リアルタイムで経験した久々のスパークスでした。相変わらずシャープなポップ・ソングの数々に目がくらんだものです。

 前作でバンド・サウンドに戻ったスパークスですが、2作目となる本作品ではよりバンドの結束が強まりました。裏ジャケットにはロンとラッセルのメイル兄弟に加えてバンド・メンバー3人もしっかりと写真が掲載されています。5人組のスパークスです。

 まだジョルジョ・モロダー路線が残っていた前作に比べ、さらにディスコ色は後退しました。しかし、モロダーとの関係は続いており、本作品もミュンヘンでの録音、さらにプロデューサーは前作に続いてモロダー人脈でELOやクイーンを手がけたマックが担当しています。

 全部で11曲、捨て曲なしの極上ポップ路線がディスコ・ビートの実験を昇華する形で進化しました。どこが悪いか本当に分からないのですが、こんなに素晴らしいのに大したヒットにはなりませんでした。全米チャートでは100位にも入らずです。

 しかし、アメリカ市場にかけた勝負は、シングル「アイ・プレディクト」の全米ヒットである程度報われました。とはいえチャート的には60位に過ぎません。繰り返しますが、こんなポップなのに売れないのは何でなんでしょう。不思議な人たちです。

 歌詞の世界は、何だか変なことになってきています。「シャーロック・ホームズ」、「ミッキー・マウス」、「ターザン&ジェーン」。主題歌を狙ってたりして。他の曲の歌詞も相変わらず面白いです。禁煙の歌「ニコチーナ」とか、女にゃできまいと歌う「マスタッシュ」とか。

 相変わらずアッパーなビートですし、早いテンポの歌はとても楽しく、心が高揚していきます。メロディーも素敵ですし、ラッセルのボーカルも味があります。ロンの作り出す音世界も聴けば聴くほど味わいと工夫が感じられて素晴らしいことこの上ありません。

 それでもどこか地味な印象です。時代を経ても古びないということは同時代に爆発する派手さに欠けるということなのでしょう。発売当時は大好きでよく聴きました。結局、本作品で満足してしまって、わくわくして次を待つ感じにはなりませんでした。スパークス・ファンあるある?

Angst In My Pants / Sparks (1982 Atlantic)

*2012年11月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Angst In My Pants
02. I Predict
03. Sextown U.S.A.
04. Sherlock Holmes
05. Nicotina
06. Mickey Mouse
07. Moustache
08. Instant Weight Loss
09. Tarzan And Jane
10. The Decline And Fall Of Me
11. Eaten By The Monster Of Love
(bonus)
12. Angst In My Pants, radio promo ad.
13. Kidnap (unreleased demo)
14. A Trying Day (unreleased demo)
15. Dancin Is Dangerous (I Ought To Know) (unreleased demo)

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : keyboards, synthesizer
Leslie Bohem : bass, chorus
Bob Haag : guitar, chorus
David Kendrick : drums
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James Goodwin : synthesizer
Mack : synthesizer programming