$あれも聴きたいこれも聴きたい-Sparks 03
 スパークスの8枚目のアルバム「ナンバー・ワン・イン・ヘヴン」は当時の音楽シーンに静かに深く影響を与えました。シンセ・ポップ、ニュー・ロマンティクスなどはこのスパークスがいなければ、登場するまでにまだまだ時間がかかったことと思います。

 アメリカに戻ったロンとラッセルのメイル兄弟は今一つぱっとしない状況に陥っていました。自らの音楽を改革する必要を自覚し、果敢な挑戦にうってでました。それはディスコの帝王ジョルジョ・モロダーとのコラボレーションです。当時としては驚くべき展開でした。

 この経緯が面白いです。ロサンゼルスで雑誌記者のインタビューを受けた際に、次のアルバムのことを聞かれて、「モロダーと組む予定」と発言したところ、記者がモロダーの親友だったため、予定がないことはすぐにばれますが、逆にわたりをつけることに成功します。

 もともとドナ・サマーの「アイ・フィール・ラヴ」を聴いて以来、スパークスはモロダーと組んでみたいと思っていましたが、連絡先も知らないし、モロダーがバンドからのラヴコールに興味を持つとは思えないとして躊躇していたのだそうです。その場の冗談ではなかったんです。

 だめもとで頼んだところ、モロダーもこれを快諾したとのことで、これまたロサンゼルスのスタジオにてアルバム制作が始まりました。このスタジオにはシーケンサーやシンセサイザーが勢ぞろいしており、モロダーも大いに感銘を受けた様子です。

 結果として出来上がった本作品のプロデューサーはもちろんモロダー、楽曲も全6曲中4曲がメイル兄弟とモロダーの共作です。ミュージシャンはドラムにキース・フォーシーなる御仁とコーラスに三名が参加している他は、プログラマーが1名いるのみです。

 全編にわたってロンとモロダーによるシンセサイザーによるサウンドが響き、ラッセルが歌っています。ラッセルのボーカルには電子的な加工が施されており、いつもの甘い歌声とは少々異なる雰囲気を醸し出しています。完全なエレクトロです。

 時は1979年、イギリスはニュー・ウェイヴの全盛期でしたけれども、まだデペシュ・モードやヤズーなどはデビューしておらず、わずかにベルギーにテレックスがいたくらいで、要するにこうしたエレクトロ・バンドはまだほとんどいませんでした。スパークスが先駆者です。

 作品は完成したものの1年もの間、レーベルが決まらなかったそうで、ようやくドイツのヴァージン・スタッフの耳にとまり、英国ヴァージンから1979年に発表されたと聞くと、さらに感慨深いです。この1年は大きい。スパークスの先見性の重みが増します。

 「ディス・タウン」ですでにぴこぴこ・ビートを先取りしていたスパークスは、本作品でモロダーのシンセ・ディスコ・ビートと合体することで新しいサウンドを作り出すことに成功しました。デュラン・デュラン、イレイジャー、ヴィザージュ、ヘヴン19、みんなこの影響下にあります。

 チャート的には大した成績を残していませんけれども、その影響力は測り知れません。そして絶妙なセンスでもって、時代物のシンセ・ポップなのに意外なことに古びていません。当時、日本盤での発売がなかったようなのは残念なことこの上ありませんね。

No.1 In Heaven / Sparks (1979 Virgin)

*2012年11月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Tryouts For The Human Race
02. Academy Award Performance
03. La Dolce Vita
04. Beat The Clock
05. My Other Voice
06. The No.1 Song In Heaven
(bonus)
07. Dancing Is Dangerous
08. Is There More To Life Than Dancing
09. Beat The Clock (Meat Beat Manifesto Remix - double bass remix)

Personnel:
Ron Mael : keyboards, synthesizer
Russell Mael : vocal
***
Keith Forsey : drums
Giorgio Moroder : synthesizer
chris Bennett, Jack Moran, Dennis Young : chorus
Dan Wyman : programming