$あれも聴きたいこれも聴きたい-Sparks 02
 「キモノ・マイ・ハウス」の大成功を受けて、わずか半年後に発表されたのがスパークスの四作目となる本作品「恋の自己顕示」です。この時期のスパークスはツアーで多忙な合間を縫って、本作品を短期間で仕上げるという猛烈な仕事ぶりをみせていました。

 新生スパークスはスタジオに入るたびにどんどん曲が出来ていったといいますから、ロンとラッセルのメイル兄弟とバックを固める英国人ミュージシャンとの相性は抜群だったのでしょう。やはりスパークスの音楽には英国が似合います。

 本作品は原題が「プロパガンダ」ですが、邦題は「恋の自己顕示」、シングル・カットされた名曲「ネバー・ターン・ユア・バック・オン・マザー・アース」は、あろうことか「家に帰れない」という邦題が付けられました。これらの邦題のセンスはいかがなものかと思います。

 特に「家に帰れない」は、決めのフレーズが♪地球に背を向けるな♪ですから、それこそ環境問題のプロパガンダにも使えそうな素敵な文句を使った曲です。単純な構成の素晴らしい名曲で、本人たちも気に入って、再録音しているくらいの名曲です。

 またまたジャケットが素晴らしい。ボートで拉致されるメイル兄弟、裏ジャケットは車で拉致されるメイル兄弟、内袋にはベッドの上で縛り付けられているメイル兄弟。拘束フェチかい、と突っ込みたくなるほどの狼藉ぶりです。奇想ですがとても分かりやすい。

 サウンドは前作の延長線上にあります。プロデュースは前作に引き続いてマフ・ウィンウッドが担当しています。アーティストに好きなようにやらせると定評のある人ですから、本作品もメイル兄弟、特にロンのやりたい放題だったのではないでしょうか。

 ラッセルによれば、本作品は前作に比べて「メロディーは鋭く、詞は過激で、曲も速いテンポをモットーとしていた」とのことです。確かにテンポは早まり、いらちな感じが高まりました。ただし、前作に比べると曲の調子に変化が乏しいような気がします。洗練、なのかもしれません。

 歌詞は確かに凝っています。「ボン・ヴォヤージ」はノアの方舟を送り出す側が歌う仕様です。発想が凄い。一方で「ドント・リーヴ・ミー・アローン・ウィズ・ハー」は、二人きりにされたら、誰が彼女にノーを言えるんだと切々と歌います。普通の情景でもひねってあります。

 ひねりにひねった歌詞や、凝りに凝ったメロディーは健在で、これまた捨て曲なしの力作です。しかし、微妙なバランスの上に立っている上質のポップ・バンドにありがちなことですが、少し過剰なやり過ぎ感も出てきました。前作に比べるとどこかよそよそしい。

 トップ・オブ・ザ・ポップスに出演したスパークスを見て、マーク・ボランとアドルフ・ヒトラーが共演している、と英国では大いに話題になりました。アイドル人気と玄人筋の人気が絶妙にあいまって、スパークスはここに一つの黄金時代を迎えたのでした。

 本作品は前作に引き続いて全英トップ10入りするヒットとなり、ついに米国でも63位と大健闘しています。英国でのコンサートはどこも大盛況で、この頃にはクイーンも前座を務めたことがあるそうです。クイーンとスパークス、音楽はつながっています。

Propaganda / Sparks (1974 Island)

*2012年10月30日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Propaganda
02. At Home, At Work, At Play 時は流れ、気分は変わる
03. Reinforcements
04. BC
05. Thanks But No Thanks
06. Don't Leave Me Alone With Her
07. Never Turn Your Back On Mother Earth 家には帰れない
08. Something For The Girl With Everything
09. Achoo
10. Who Don't Like Kids
11. Bon Voyage
(bonus)
12. Alabamy Right
13. Marry Me

Personnel:
Ron Mael : keyboards
Russell Mael : vocal
Trevor White : guitar
Ian Hampton : bass
Dinky Diamond : drums
Adrian Fisher : guitar