$あれも聴きたいこれも聴きたい-Arsnova ロック少年、ジャズ親父という言葉があるならば、少女は何かというと、これはもうプログレ少女です。いろいろ組み合わせてみると、プログレ少女が一番しっくりくると思います。

 英国のプログレ全盛時代でも、日本では女性のファンの方が多かったのではないでしょうか。少なくとも私の周りではそうでした。むんむん香るブルース臭溢れるロックよりも、端正な様式美の世界が少女には受け入れやすいのでしょう。

 まずは映像をご覧ください。おねえさーん!!と思わず叫んでしまいたくなりました。かっこいいですね。超かっこいい。キーボードの熊谷さんは口を結んだ方がいいとは思いますが、些細なところにいちゃもんをつけるのはやめましょう。CDはかなり前に入手していたのですが、映像は今回初めて見ました。背筋がぞくぞくするほどかっこいいです。

 私のようなオヤジにお姉さんと呼ばれる筋合いはないでしょうが、そう呼ばせてしまう風格があります。アルスノヴァは間違いなく日本のプログレ界の誇る女神たちでした。彼女たちは今でも現役で活躍していますが、編成はかなり異なっていますので、女神という言葉は過去形にしました。

 この作品はアルスノヴァの三枚目のアルバムで、1996年に発売されました。私がもっているCDは2005年から始まったレーベル復刻計画の一環として再発されたものです。それまで彼女たちのことはほとんど知りませんでした。

 当時のメンバーは、キーボードの熊谷桂子、ベースの金沢京子、ドラムスの高橋明子のトリオです。エマーソン、レイク&パーマーを彷彿させるキーボード・トリオで、プログレの典型ですね。彼女たちは、もともと83年に学生バンドとして金沢さんを中心に結成され、その後紆余曲折を経てこのメンバーとなり、95年の秋、アメリカのプログレ・フェスティバルで大歓声を浴びます。

 この頃、日本のプログレ界は国内ではさっぱりだったので、むしろ海外で活躍したのはよかったのでしょう。アメリカのみならず、プログレの本場ヨーロッパでも人気を博し、この三枚目のアルバムはフランスでも発売されたということです。

 私は同時代にはほとんど知りませんでした。ぬかりましたね。パンク、プログレ、メタルは確立したジャンルとして、流行に左右されずに強固な地盤を形成していたのに、あまりに無頓着でした。こんなにいいアルバムを見逃していたのは痛恨の極みです。

 サウンドは、ボーカルなしでキーボードばりばりです。イエスのクリス・スクワイアになぞらえられるベースも踊りますし、ドラムは叩きまくる、基本的には激しい曲調です。しかし、シンフォニックでもあり、スケール感がイタリアっぽいと言えば分かりやすいでしょうか。典型的なプログレながら、ありそうでない。個性的です。

 作曲は熊谷さんがどしどし書いてきたといいます。彼女の頭にある悪夢の映像イメージを曲にしているそうで、とても映像的、描写的でホラーな楽曲になっています。このアルバムは全5曲、いずれも曰くつきのタイトルです。ギリシャ神話の妖女「ゴーゴン」、インドの破壊神「カーリー」、イギリスの妖精「アインセル」、アーサー王?の「モーガン」とギリシャの女神「フューリー」。音楽が浮かんできそうですね。

 ちょっと難があるとすれば録音ですかね。もう少し奥行きのある音像にすればもっとよかったのかもしれませんが、そこらあたりがインディーズの限界かもしれません。ライブの方がもっとかっこいいですからね。

 しかし、楽曲の質は高いし、素晴らしいアルバムであることは間違いありません。何もイタリアものを探さなくても、日本にもこんなに素晴らしいプログレ・バンドがいるということをもっと多くの人が知るべきだと思いました。
 
The Goddess of Darkness / Arsnova (1996)