$あれも聴きたいこれも聴きたい-Sanjay Mishra インドの音楽と言ってもいろいろな種類があるわけですから、インド「人」の音楽となると、それこそ星の数ほど種類があります。

 このサンジャイ・ミシュラのアルバムは見事に意表をついて西洋流のクラシック・ギターに近いです。サンジャイは米国にわたってクラシック・ギターを学んだコルカタ生まれのインド人です。70年代にはロックバンドをやっていたといいます。

 米国ではなかなか彼の音楽は認められず、彼は夜になるとインド料理屋さんでシタールを弾いてお金を稼いでいました。しかし、ある時、たまたま彼が演奏する店に来店したインドの至宝ラビ・シャンカールに「なめとんのか」と言われて、背筋が凍る思いをします。反省した彼は、ギター一筋の道に舞い戻りました。恐ろしいエピソードですね。

 このアルバムはそんなサンジャイが広く認められるきっかけとなったアルバムです。何と言ってもあのジェリー・ガルシアが競演しているところが話題となりました。しかも、ジェリーにとっては生前最後の録音です。

 ジェリー・ガルシアはそのヒッピー哲学から容易に想像がつくとおり、インドに入れ込んでいました。そして、その遺灰は奥さんとグレートフル・デッドの仲間によってガンジス河に流されたほどです。

 そんな彼がサンジャイ・ミシュラの音楽に聴き惚れて競演を申し出たんだそうです。ジェリー・ガルシアはあまり他のギタリストと競演していませんから、これは結構貴重です。ここでは、10曲中3曲で共演しています。そのわりには大きく名前が出ていますね。

 ここでのジェリーの演奏は、その特徴的なぽわんぽわんした音ではなく、実に内省的です。若い頃の浮遊感ではなく、いかにも晩年の演奏という感じで、最初に聴いたときはどれだか分からないほどでした。これもまたジェリー・ガルシアの一つの顔です。重いです。

 さて、この美しい作品は、控えめなタブラと静かなベースをバックに、サンジャイのギターがしなやかにかつ流麗に響くものです。時にフルートが入りますが、実にシンプルでスピリチュアルな作品に仕上がっています。

 タブラは入りますが、西洋流クラシック調の曲と、インド風の曲が入り混じっています。ドレミファとサレガマが見事に共存していると言えましょうか。何度も聴いていると病みつきになること受け合いです。現にこのアルバムを紹介した知人はどっぷりはまりましたよ。

 心洗われる見事なギター作品です。

 このアルバムがインド国内で発売されたのは発表から実に14年の時を経てからでした。インドでは、インディアビート・レコードという、良質なフュージョン作品を発表している注目のレーベルからの発売となりました。

 サンジャイは米国で認められるのに時間がかかったと言っていますが、インド国内ではもっと時間がかかったわけです。しかし、彼は、この作品以降、フランス映画のスコアを書いて賞をもらったり、順調な活躍を続けているとのことです。一層の活躍を祈ります。

Blue Incantation / Sanjay Mishra (1995)