$あれも聴きたいこれも聴きたい-Sparks 01
 スパークスはデビューしたものの、発表した2枚のアルバムは商業的にはさっぱりでした。しかし、英国ではある程度の手ごたえを感じたのでした。スパークスのひねくれポップ感覚は確かに英国向きです。本人たちも英国の音楽にのめり込んでいましたし。

 ところが、英国でのプロモーション活動はレコード会社によって打ち切られてしまいます。あきらめきれないメイル兄弟が英国でのマネージャー、ジョンズ・チルドレンのジョン・ヒューイットに相談すると、ジョンは当時新興だったアイランドとのディールをまとめます。

 その条件の一つに兄弟以外を英国人ミュージシャンに代えることがあったとのことで、兄弟は仲間に内緒で英国に飛び立ちました。仲間を裏切ったとの思いは長らく残ったようですが、ともかく、新バンドをオーディションして、新生スパークスが誕生しました。

 本作品は新生スパークスによるデビュー作「キモノ・マイ・ハウス」です。プロデューサーのスティーヴの兄マフ・ウィンウッドがメイル兄弟のやりたいようにやらせたアルバムはいきなり大傑作になりました。全英トップ10入りする大ヒットを記録し、その名を一躍轟かせました。

 この当時のイギリスはロキシー・ミュージックやデヴィッド・ボウイなど、いわゆるグラム・ロックの時代でした。くせのあるロックが大流行していたわけです。スパークスはラッセルの秀でたルックスがありましたから、ビジュアル的にもグラムの流れに乗ることができました。

 ついでにジャケットのセンスも絶妙です。けばけばしくてキッチュ。メイル兄弟があやしい芸者に扮しているのかと思っていましたが、そうではなく、これは日本人女性らしいです。素晴らしいとしかいいようがない着物の着こなし、いや着くずし方です。

 サウンドはデビュー当時から変わらぬ時代を先取りした極上のポップスです。全英トップ10のシングル・ヒットとなった「ディス・タウン」のビートがその典型で、これは数年後にやってくるテクノ・ポップのピコピコ・リズムを完全に先取りしています。

 冒頭のこの曲に続く「アマチュア・アワー」も同じくトップ10入りするシングル・ヒットですし、とにかく全曲捨て曲なしの名曲ぞろいです。キャッチーすぎて頽廃的な感じさえ漂うメロディーをファルセットを多用するラッセルのボーカルが歌うさまはとにかくかっこいいです。

 それに歌詞が幾重にもひねってあって、そのセンスは抜群です。アインシュタインのことを歌った「タレント・イズ・アン・アセット」や「アスタ・マニヤーナ・ムッシュ」など皮肉のきいた歌詞から、学生だった私はずいぶんと勉強させてもらったものでした。

 全体に浮き立つような高揚感と、シニカルな視点が見事にマッチしていますし、サウンドはいろいろな要素が微妙にバランスされています。最後の美しい曲、「赤道」まで一気呵成に聴かせる大傑作だと思います。学生時代、それこそ擦り切れるくらい聴いたものです。

 スパークスは本作の成功によってイギリスで大いに人気を博します。とりわけラッセルのアイドル的な人気は凄まじかったのですが、それよりも、この時期のスパークスに感銘を受けて、後にビッグ・スターになるミュージシャンの多いこと多いこと。

Kimono My House / Sparks (1974 Island)

*2012年10月28日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. This Town Ain't Big Enough For Both Of Us
02. Amateur Hour
03. Falling In Love With Myself Again
04. Here In Heaven
05. Thank God It's Not Christmas
06. Hasta Mañana monsieur
07. Talent Is An Asset
08. Complaints
09. In My Family
10. Equator
(bonus)
11. Barbecutie
12. Lost And Found

Personnel:
Ron Mael : keyboards
Russell Mael : vocal
Dinky Diamond : drums
Martin Gordon : bass
Adrian Fisher : guitar