$あれも聴きたいこれも聴きたい-Pascal Roge ツタンカーメン展が大人気です。入場者は200万人規模になると漏れ聞きました。東京では上野の森美術館で開催されており、3000円の入場料とお高いにもかかわらず、連日大盛況です。

 私たちの年代ですと、ツタンカーメンといえばそれは「呪い」の代名詞です。見に行った後は、上野東照宮、湯島天神、神田明神に続けてお参りして、日本の神様にエジプトの呪いを解いてもらう必要がありそうです。

 サン=サーンスのピアノ協奏曲第五番は、「エジプト風」というタイトルが付けられています。サン=サーンスはエジプトが大好きだったそうで、何度も訪れているそうですから、単なる空想のエジプトではありません。筋金入りのエジプト風です。

 ということですが、残念ながら私にはどこがどうエジプト風なのか皆目見当が付きません。サン=サーンスの時代は植民地エジプト、私にとってなじみが深いのは古代エジプト王国か現代のエジプトです。全く異なるエジプト観なんでしょうね。

 この「エジプト風」はサン=サーンスの芸能生活50周年を記念してパリで1896年に開催されたコンサートで、サン=サーンス本人のピアノで初演されました。デビューは11歳ですから、50周年と言ってもまだ61歳です。子どもの頃から活躍した天才だったんですね。

 サン=サーンスの生きた時代は、フランス音楽が大きく変わった時代でした。特にドイツとの関係では普仏戦争での敗北という大きな事件がありました。敗北の翌年には国民音楽協会が設立されて、ドイツに負けない正統的な器楽文化をつくろうと燃え上がります。サン=サーンスも設立メンバーの一人です。

 この時代、フランスはエキゾチズムにも目を向けます。従来の西洋芸術音楽が発展の限界に達している、要するに壁にぶつかっているという認識があったということです。サン=サーンスもそう言っています。そこに東洋の旋法を取り入れて実り豊かな音楽をつくろうということです。

 というような歴史的背景にあるということなんですが、どこがエキゾチックなのかよく分からないので、ああそうですか、というしかないのが残念なところです。ただ、フランス対ドイツの図式はなんとなくわかります。いかにもドイツではない感じがします。

 このピアノ協奏曲群は、耳に優しい響きがあります。柔らかなタッチで華麗に紡がれる優美な旋律はとても気持ちがいいと感じます。ピアノとオーケストラのバランスもよいですし、耳になじみますね。

 サン=サーンスと言えば、「動物の謝肉祭」しか知らなかったので、何となく心優しくて若い優男のイメージでしたが、実際には嫌味な爺さんだったという方面の話に事欠かない人のようで、そういえばそうかなと思いながら、聴いてみました。

 しかし、作曲家の人柄よりも、演奏者の人柄ですね。パスカル・ロジェは写真を見る限り、心優しくて若い優男ですし、ピアノ演奏も風貌そのままです。そういうわけで、いろいろと思いは巡りましたが、結局は、素敵な気持ちの良い作品だったという結論です。

Saint-Saens : Piano Concertos Nos 2,4&5 / Pascal Roge, Charles Dutoit, Royal Philharmonic Orchestra, Philharmonia Orchestra (1981)