$あれも聴きたいこれも聴きたい-Karl Munchinger この歳になって、クラシックを聴くようになったきっかけは何を隠そうバッハでした。坂本龍一さんのスコラ・シリーズの第一弾がバッハで、それを聴いて、聞かず嫌いだったクラシックに目覚めたのでした。

 そのわりには、今まで遠回りしてきましたが、ようやくバッハに戻ってきました。やはりいいですね。ほっとします。ロマン派もいいんですが、やはりバッハがいいです。大衆音楽をずっと聴いてきた者にとって、最も親しみやすいのではないでしょうか。

 何といっても旋律がいいです。美メロってやつですね。螺旋を描いて上ったり下りたりするところも気持ちが良いですし、二つのメロディーが絡み合いながら同時進行するところなど、鳥肌ものです。分かりやすいけれども深い。素敵ですね。

 この作品は、バッハの声楽曲の中でも人気の高い「マニフィカート」と教会カンタータの10番をカップリングしたLPです。指揮するのはカール・ミュンヒンガー、バッハのスペシャリストです。演奏は、彼が結成したシュトゥットガルド室内管弦楽団です。

 シュトゥットガルド室内管弦楽団はバロック音楽を演奏することを主目的に結成された楽団で、20世紀後半のバロック・ブームの火付け役なんだそうです。肩の力の抜けたリラックスした演奏はとってもいいと思います。ウェスト・コーストとかサザン・ロックのような抜け具合が魅力です。

 ボーカルは、ミュンヒンガーと仲の良いエリー・アーメリングのソプラノが中心ですか。一番最初に書いてあります。ボーカルもこれまた普通にポップスな感じで素敵です。大げさに構えたところがないんですね。とても楽しそうです。

 「マニフィカート」は「我が心、主を崇め」という聖歌ですが、何だか陽気な曲でラテンな感じがします。歌詞を現代風にすればヒット・チャートに入ってもおかしくないですね。カンタータの方は、そこまで陽気ではありませんが、これも美しいメロディーで気持ちが良い。

 宗教歌ですから、神学的背景などを考えなければならないのかもしれません。しかし、植えつけられたイメージとは異なって、キリスト教はとても世俗的な宗教ですから、あまり考える必要はありません。ましてや、今よりももっと大衆に近いところにあったわけで、大衆文化と地続きでしょう。

 バッハは楽譜を読んで初めてその真の凄さが分かるとも言われますが、そんなこと言われても私にはどうしようもありません。ポップスを楽しむように普通に楽しむことができるだけでもう十分です。

Bach : Magnificat in D major, Cantata No.10 / Karl Munchinger, Stuttgert Chamber Orchestra (1969)

ミュンヒンガーのものがなかったので、とりあえずこれを。