$あれも聴きたいこれも聴きたい-Mono MONOはステレオ・モノラルのモノだそうです。そういえば4チャンネルはどこに行ったんでしょうね。いきなり5.1チャンネルと言われても、私の中ではなかなか折り合いがつきません。部屋の四隅にスピーカーを置いて、音が駆け巡ったのはいつの日だったでしょうか。

 与太話はさておき、MONOは99年に結成されて以降、ヨーロッパやアメリカなど世界中で活躍している四人組のバンドです。ためしにウィキペディアを見てみると、日本語版の記載に比べて、英語版は10倍以上も記述があります。むしろ海外で有名なバンドなんですね。面白いです。

 ジャンル的にはポスト・ロックと言われるようですが、本人たちはそう呼ばれるのはあまり好きではないそうです。では自分たちでどう表現しているかというと、「インストゥルメンタル・ミュージックを演奏する四人組のバンド、ボーカルなし」です。おっしゃる通り。

 影響を受けた人物としては、ラーフ・フォン・トリアー監督の名前が上がるところが面白いです。デンマークの鬼才。私は、ある年のゴールデン・ウィーク初日に「ドッグヴィル」を見て、ショックのあまり、その一週間を棒に振ったという恐ろしい体験をしました。恐ろしい話です。

 他にも、面白いところでは、ベートーベンの第九に用いられたシラーの詩、「苦悩に負けずに、 突き抜けることができれば、 そこには歓喜が待っている」が好きだと語っています。加えて、エンニオ・モリコーネ。ようやくレッド・ツェッペリンと来て、ほっとさせてくれます。

 この作品は、彼らの6枚目の作品です。全編にわたって、ホーリー・グラウンド・オーケストラというアメリカの前衛オーケストラ集団とともに、大聖堂を改造したスタジオで制作されています。とても仕掛けの大きな雄大なインスト大作です。壮大なスケールで描かれるロック・シンフォニーです。

 オフィシャル・ビデオでは、アイスランドの風景を背景に、この作品冒頭の曲「レジェンド」が流れます。北欧の風景が似合うんですね。確かに。寒い。荒涼とした風景が広がります。艶めかしいギターの音が流れてきても、グルーヴとかいう言葉は似合いません。とても端正で、クラシックよりの音の風景。

 シューゲイザーと呼ばれる内省的な轟音ギター・ロックの系譜にあるとも言えると思いますが、風呂敷の広げ方は、クラシック的ですから、プログレ・メタルと呼ばれる折り目正しい音楽への向き合い方だとも言えましょう。堂々たるロマン派です。

 ジャケットには淡いセピアがかったモノクロで、森の中を手をつないで散歩する老夫婦の姿。親に捧げられたアルバムに嘘はありません。子どもは育っても愛は永遠に続くというメッセージでしょうか。アルバムには何と便箋がついています。これは自分の親に手紙を書こうという心遣いかな。

 曲名は、全部英語ですが、勝手に訳してみると、「伝説」「郷愁」「夢の旅路」「まだ見ぬ港」「静かな場所(手を取り合って)」ということになります。世界観が露わですね。とても抒情的な音楽で、ヨーロッパ映画を見ているような気になります。

 何とも素敵な気分になります。涙があふれてくるような、そんな胸がつまる音楽ですね。日本的なメロディーがまた特に琴線に触れるんですね。恐ろしいことです。

 オーケストラなしのビデオもご紹介しておきます。もはや、意外な感じもしますが、こちらも素晴らしい。 

For My Parents / MONO (2012)