$あれも聴きたいこれも聴きたい-Sivamani ジャケットを見て頂ければ想像できるでしょう、シヴァマニさんは人気者です。彼は世界的なパーカッショニストですが、ちょっとお笑い系が入っています。いいキャラクターなんですね。

 このアルバムが発表された頃、私はまだインドに住んでいました。アルバム発表は結構大きなニュースになっていて、各都市で行われたローンチングには多数のファンが詰めかけました。それまであまり名前を聞いたことがなかったので少し意外に思ったことも事実です。

 シヴァマニさんは、59年生まれですから、私より一つ歳上です。お父さんが南インドの映画界では有名なドラマーだったことから、7歳でスティックを握り、12歳の頃にはすでに舞台に立っていたといいます。13歳になる頃にはレコーディングもこなし、プロとして活躍しだしました。

 南インドの古典音楽、カルナティックは北インドよりもより伝統にうるさい。そんな視線の中で彼はすくすくと腕を磨いていきました。古典の巨匠たちと数々の共演を果たした彼の目は、やがて海外にも向けられ、ビリー・コブハムなどにも影響を受けるようになりました。

 コブハムは、インド音楽に接近したジャズ・ギタリストのジョン・マクラフリンとマハヴィシュヌ・オーケストラで共演したドラマーです。自然な邂逅でしょう。

 やがて、シヴァマニさんはインド最高のドラマーの一人となり、タブラの巨匠ザキール・フセインは彼のことを100年に1人か2人の天才と称えます。

 しかし、何とこのアルバムは彼の初のソロ・アルバムとなります。12歳でデビューしてから、37年目、50歳を目前にしたヴェンチャーです。あまりレコード制作に頓着しないインドの事情がよく分かりますね。

 この人は本当に人がいいのだと思います。アルバムは神への祈りから始まって、人々への感謝で締めくくられます。実際、最後の曲「サンキュー」は約6分間にわたって、静かな音楽をバックに、シヴァマニさんが、家族、師匠、彼に影響を与えた人々、共演したミュージシャンなどに感謝を述べています。

 こんなアルバムないですよね。普通は、ジャケットやブックレットに書いてお終いですが、何とも丁寧だし、本当に感謝の心に溢れていることが分かります。いいですね。

 シヴァマニは、何でも叩きます。ドラム・セットからインドの伝統的な打楽器から、スーツケースまで。叩けるものは何でも叩く人です。しかし、インドの打楽器というとタブラが最も有名でしょうが、あまりタブラは叩かないようです。

 このアルバムでは、多くのゲストとともに、彼の音世界が繰り広げられます。タブラのザキール・フセインや、インドのジャズ大将ルイス・バンクス、ボーカルには、「スラムドッグ・ミリオネアー」の「ジャイ・ホー」を歌ったタンヴィ・シャーや、南部インドの大物歌手ハリハランなど、多彩なゲストです。

 シヴァマニは、パーカッションももちろん叩くのですが、必ずしも自分が前面に出てばかりいるのではなく、コンポーザー、プロデューサーとしてアルバムを締めています。全12曲はそれぞれが違った編成で異なる表情を持っています。

 冒頭から、いきなり打ち込みリズムを使った曲ですからね。我々の世代には懐かしいバグワン・シュリ・ラジニーシ、今はオショーと言いますが、彼の語りをフィーチャーした曲では、シヴァマニの娘さんによる赤ちゃんの声や女声コーラスが主役ですし。

 叩きまくる曲もあれば、インドらしい歌謡曲もあり、捨て曲なしの展開です。彼の作り出すリズムは素晴らしい。全体にインドの雰囲気はもちろんあるわけですが、彼のリズムはインドから地球全体を覆い尽くすかのようです。普遍的なぴちぴちしたリズムに酔いしれます。

 久しぶりに浴びたインドの風は魂を揺さぶってくれました。

Mahaleela My Journey Through Life / A Sivamani (2008)