$あれも聴きたいこれも聴きたい-実験台モルモット バイオリンはクラシックだけではなくて、インド音楽やカントリー・ミュージックでは主役として活躍していますし、ロックでもいわゆるストリングスまで入れなくても時々見かけます。歌謡曲で使われる場合には、切ない系の楽器としての使われ方が多いように思います。

 実験台モルモットは、キャッチフレーズが「切ナ色歌謡ロック・バンド」です。バイオリンがギターと並んで見事に主役を張っているバンドです。結構、日本のインディーズ界では有名なバンドのようです。ニコニコ動画でまとまった映像が見られます。

 これは彼らの2作目の作品です。このジャケットが素晴らしい。「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」を思わせる世界観です。表紙のみならず、ブックレットには全8曲、一曲一ページに歌詞とともにイラストが描かれています。全曲の作者でボーカルの谷琢磨さんによるイラストです。一気通貫ですね。

 曲名を並べてみると、「人形劇」「ボクゲノム」「ベイカー」「キラワレタクナイ症候群」「猫になれる薬」「溜息の狂騒曲」「ザラメヲリヅル」「リストカッター」となります。どうです、匂い起つものがありますね。ちなみに帯の煽り文句は、「あなたが捨てた感傷、再度お取り寄せ致します」となっています。

 歌詞の世界も徹底しています。抽象的な歌詞ではなくて説明的で、具体的な情景を描写していきます。歌われる内容は、「キラワレタクナイ症候群」の中の一節、♪そんな僕のすべてを殺したいくらい愛しているの♪、が全てを代表しています。徹底的な自己愛で自己の内面に沈潜していくわけです。

 人を選ぶ世界観ですが、生憎、私はこういう世界が嫌いではありません。大島弓子の「綿の国星」なんかをちょっと思い出しました。引きこもり体質のある私にはとても素敵に思えます。欲を言えば、もう少し抽象度が高くてもいいのかなと。

 ダンス全盛の世の中に毅然と背を向けるサウンドはなかなか迫力があります。歌謡ロック・バンドだと本人たちは言っていますが、ジャズっぽくスウィングする楽曲が何曲かあって、それがとても決まっています。その一方の柱は、もろに昭和歌謡的な香りのする楽曲です。こちらはとてもカラオケジェニックです。どちらも何とも達者な演奏ですね。

 見た目はビジュアル系のバンドのようでもあり、歌詞の聴かせ方はフォーク系のようでもありますが、昔のナントカ系と違って、態度がとても自然なところがいいですね。気負いがない。東日本大震災では被災地支援ライブなども行っています。歌詞が歌詞だけに、どの歌を歌うか悩ましかったことでしょう。

 若者たちの伸びやかなサウンドは羨ましい限りです。11月にライブがあるそうなので、見に行こうかな。

良い子のための感傷キセカエ型録 / 実験台モルモット (2011)