$あれも聴きたいこれも聴きたい-Penderecki 弦をこする音はかなりホラーです。ガラスをひっかく音に近いですから、背筋に冷たいものが走りそうになります。納涼音楽ですね。

 ペンデレツキはポーランドの現代音楽家です。一方、ジョニー・グリーンウッドは現代最高のロック・バンドの一つレディオヘッドのギタリストです。異質な二人のコラボレーションに思われますが、ペンデレツキの音楽は、結構ロック的な音響ですし、レディオヘッドの方は現代音楽的ですから、そんなにおかしくはありません。

 それに、グリーンウッドは、幼少期にチェロやチェンバロを習っていて、クラシックの素養がある上に、現代音楽には随分詳しいらしく、特にペンデレツキにはかなり傾倒しているようです。この作品には、ペンデレツキの作品が2曲、それに触発されたグリーンウッドのアンサー・ソングが2曲と、尊敬の眼差しが明らかです。

 ここに収められたペンデレツキの作品は、「広島の犠牲者にささげる哀歌」と「ポリモルフィア」の2曲です。どちらも弦楽器のための作品です。前者は、もともと「8分37秒」という身も蓋もないタイトルでしたが、重い題名に変えた後、急に有名になりました。現代音楽の世界でもタイトルは重要ですね。後から捧げるというのも何ですが。

 弦楽器だけのために書かれた作品です。しかし、バイオリンが24、ヴィオラとチェロが10ずつ、ベースが8、合計52本の大所帯です。ペンデレツキは、大昔に作られた楽器を使って演奏しなければならないことが、すべての作曲家にとっての問題だと述べている人ですから、音響にはとことんこだわっていて、できるだけ普通じゃない音を出すように仕組まれています。

 何とも不思議な音なんですが、結果としてホラー映画のサントラ風になっていて、耳になじみやすい音になっています。それが証拠に、48本の弦楽器のために書かれた「ポリモルフィア」の方は、「シャイニング」や「エクソシスト」に使われています。

 「ポリモルフィア」は、病院で精神病者に「広島の犠牲者にささげる哀歌」を聴かせて、その脳を撮影した画像を使って作曲されたという恐るべき作品です。あらゆる音響が繰り広げられるのですが、最後の最後は王道中の王道となる純粋なCメジャーの音で終わるというカタルシスが待っています。逆どんでん返しですね。

 グリーンウッドは、この2曲へのアンサー・ソングを書いています。ペンデレツキの曲に比べると貫録は足りませんが、こちらは少しロック的なニュアンスもあって、なかなか面白いです。

 特に、さすがにロックの人だなと思わせるのは、演奏者への視線です。クラシックの作曲家や指揮者にとっては、特にオーケストラの演奏者は統制すべき対象だとみているように感じます。しかし、グリーンウッドは、「ポリモルフィアへの48の反応」に演奏者の数が出てくるように、個々の演奏者が主人公であると見ています。一回一回の演奏がそれぞれ二度とないことを愛おしむ気持ちがいいですね。

 ところで、「ポリモルフィアへの48の反応」では、Cメジャーにこだわっているために、バッハのようになってしまっているというご愛嬌もあります。

 演奏はAUKSOオーケストラ、ペンデレツキの作品は彼自身が指揮し、グリーンウッドの曲はマレク・モシュというポーランド人が指揮しています。グリーンウッドの心情は通じたのでしょう、素晴らしい演奏です。

 弦楽器と言えば、流れるような音に親しんできましたが、ここに聴かれるように、こすったり、たたいたり、鉛筆でひいてみたり、なんやかんやすると、テクノっぽい音に聴こえる時もあります。アンビエント・テクノなどとの親和性もきわめて高いです。

 とても刺激的な納涼音楽として、お勧めします。聴きほれてしまいますよ。

Threnody for the Victims of Hiroshima, Popcorn Superhet Receiver, Polymorphia, 48 Responses to Polymorphia / Krzysztof Penderecki & Jonny Greenwood (2012)