$あれも聴きたいこれも聴きたい-Jam 03 魂振りという言葉をご存知でしょうか。疲れて活力を失った魂を再生することです。端的に言えば、故郷に帰って、ラット・レースに疲れた心にエネルギーをチャージするようなことです。盆暮の帰省はそういう意味合いも持ち合わせています。

 ジャムは典型的なイギリスのバンドなので、アメリカでは全く受けません。何とかこの状況を打開しようと、彼らは、前作の後、アメリカ・ツアーに出かけますが、全く受け入れられず、結構なショックを受けたようです。

 まあ、♪ゴー、ゴー、ゴジラ♪なんて歌っているブルー・オイスター・カルトの前座だったこともあったようで、そりゃあ客層が違うわと同情してしまいます。ツアーのセッティングにも問題があったのでしょうし、ロンドン・パンク勢は全部だめでしたから、仕方ないと言えば仕方ないですね。

 ジャムの柱、ポール・ウェラーはそんなこともあってスタジオに入っても気合が入らず、相変わらず彼女に影響を受けて、「古着屋でも始める」などと言い出す始末。レコーディングも途中で放棄され、幻の三枚目が存在すると言われています。

 そんなポールは故郷ウォーキングに引きこもり、来し方行く末を沈思黙考しました。そうして、答えを見つけたのでしょうか、ついに曲が彼の中から迸りだします。出来上がった曲の数々はこれまでのジャムの曲からは格段に進化を遂げていました。ついにポールの才能が開花し、ジャムは大成功へと歩んでいくことになったわけです。

 見事な魂振りでした。これもまた青春ですね。

 そんなわけで、このアルバムは全12曲、捨て曲なしの快作になりました。初期ジャムのサウンドが完成したと言われますが、前2作とは質が違っていて、魅力の在り様が異なっているのだと思います。それが証拠にこのアルバムの頃から、ジャムはパンクだとは言われなくなりました。

 今回のカバー曲はキンクスの「デイヴィッド・ワッツ」一曲です。この曲は「バクダンさわぎ」との両A面シングルとして発売され、結構な成功を収めました。いかにもイギリス的なバンド、キンクスの曲をカバーするあたり、ルーツに自覚的ですし、ジャムの決意の表れも感じます。

 そして、どの曲も直截な歌詞です。シングル・カットもされた名曲「チューブ・ステイション」では、真夜中の地下鉄で殴り殺される男の悲劇を散文的に歌っています。結構いやでも歌詞を聴かせるタイプの曲です。他の曲もシンプルにメッセージを綴っていまして、そういうところも地元密着型なんでしょうね。

 基本的には、曲は最小ユニットによるシンプルなロックで、アレンジもまだストレートですが、アコースティックな曲も増えてきましたし、ギターの多重録音も徐々に増えてきて、奥行きが深くなりました。曲の魅力も増していますし、何よりも気合が入っています。自信も感じられます。

 アメリカでは相変わらず売れませんでしたが、イギリスではトップ10に入るヒットとなり、ジャムの出世作として今でもイギリスでは高い人気を誇ります。

 ジャムの快進撃はここから始まりました。魂振りの威力は凄いです。

All Mod Cons / The Jam (1978)