$あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa 16
 フランク・ザッパ先生が大けがをした後の二作品は電子室内音楽の作品でしたけれども、ここではまたがらりと音が変わりました。グランド・ワズー・オーケストラは解散して、再びロック・バンド編成になり、3分から6分強の曲が7曲とロック仕様のアルバムとなりました。

 「興奮の一夜」はザッパ先生としては初めてではないかと思われますが、全米チャートに顔を出しました。しかも30位、快挙です。確かにキャッチーな曲が並んでいるので、ごく自然に普通のロック・アルバムとして一般に受け入れられたのだと思われます。

 バンド・メンバーには、先生の右腕として活躍してきた何でもできる二人、イアン・アンダーウッドとサル・マーケス、そして以降ザッパ・バンドの常連となるブルース・ファウラーが初登場しました。この三人で管楽器を演奏するというとても贅沢な布陣です。

 リズム隊には、これまた初登場となるベースのトム・ファウラー、ドラムにラルフ・ハンフリー。パーカッションにはザッパ・バンドには欠かせない存在のルース・アンダーウッドです。加えて、キーボードにジョージ・デューク、バイオリンにジャン・リュック・ポンティ。豪華です。

 先生が何よりもやりたかったことは、またツアーに出ることだったといいますから、そのためのバンド編成です。オリジナル・マザーズも味わいがありましたけれども、ここに集められた先生お気に入りの面々は演奏能力ではるかにオリジナルを凌駕しています。

 このアルバムでは何が違うといって、やはりリズムだと思います。一部にはスティービー・ワンダーのようだと評されていますが、これまでのザッパ・バンドの音楽とはやや異なる、とてもエロチックでファンキーなリズムです。絡みつくようなねっとり感があります。

 そんなリズム隊をバックに、達者なプレイヤーたちが驚異的なソロと絶妙なアンサンブルをきかせてくれます。それが比較的短いキャッチーな曲の中に凝縮されているわけですから恐ろしい。「誰も聴いたことのないようなサウンド」と先生が自慢するのも分かります。

 一方で、今回はほとんどの曲で先生自身が歌いまくっています。事故のおかげで声が低くなってしまったそうで、以前よりも歌声のエロエロ度が高まりました。歌詞もとびきり卑猥だったため物議を醸したようですが、この下世話さがヒットの原因でもあるのでしょう。

 本作品は先生のソロ名義ではなく、ザ・マザーズの名義で発表されました。それだけ先生はこのマザーズの面々を気に入っていたのでしょう。1973年はこのバンドを率いたツアーに明け暮れています。まずは先生の事件からの完全復活を寿ぎましょう。

 なお、しばしば女声コーラスが起用されているのですが、何とこれはティナ・ターナーとアイケッツなのだそうです。気難しいアイク・ターナーが拒否したために、アルバムにクレジットを入れることはかないませんでしたが、本人たちは大いに楽しんだようです。

 また、これまでのアルバムはビザール・ストレイトから発売されていましたが、ワーナーとのディストリビューション契約が切れることを契機に、新たにディスクリートなるレーベルが設立され、本作品はそのディスクリートから発売されました。ごたごたの予感がします。

Over-nite Sensation / Zappa/Mothers (1973  DiscReet) #017

*2012年9月19日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Camarillo Brillo
02. I'm The Slime
03. Dirty Love
04. 50/50
05. Zomby Woof
06. Dinah-Moe Hum
07. Montana

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocal
Tom Fowler : bass
Bruce Fowler : trombone
Ralph Humphrey : drums
Sal Marquez : trumpet, vocal
Ruth Underwood : marimba, vibes, percussion
Ian Underwood : flute, clarinet, alto & tenor sax
George Duke : keyboards, synthesizer
Jean-Luc Ponty : violin, baritone violin
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Ricky Lancelotti : vocal
Kin Vassy : voice