$あれも聴きたいこれも聴きたい-Luigi Nono とてつもなく緊張しますね。現代音楽を聴く楽しみの大きな部分はこの緊張にあります。故桂枝雀師匠によれば、笑いは緊張と緩和の組み合わせから起こるということですが、現代音楽には緩和がありません。緊張しっぱなし。

 お彼岸も間近だというのにまだまだ暑い。その上、台風が日本全土に影響を与えていて何やら不穏な天候です。そんな状況においても、この緊張体験はヒンヤリした空気を持ち込んできて、頭が冴えてきます。流しそうめんのようなものでしょうか。

 ルイジ・ノーノは、イタリアの現代音楽家です。私は、ルイジつながりで、ルイジ・ルッソロと混同していまして、騒音の人だとばかり思っていました。そういうわけですから、騒音の出てこないこの作品には驚いてしまいました。情けないですね。

 ノーノは熱心な共産主義者だということで、彼の作り出す前衛音楽はブルジョアへの攻撃の矢ともなっていました。何だか頑固な人だという気がしますね。

 彼はミュージック・セリエル、セリー音楽の中心人物であったとのことです。12音技法から出てきた手法で云々と説明されていますが、私には何のことだか分かりません。こういう音楽をそう呼ぶのだと考えればいいのでしょう。

 このCDは、ノーノの作品を4曲収録しています。「ポリフォニカ-モノディア-リトミカ」は1951年、「13楽器のための歌」が1955年、歌曲「ギオマールの歌」が1962/3年ですが、最後の27分近くの大作「『進まなければならない』夢見ながら」は1989年です。

 実に40年近い時を隔てた作品が並んでいます。とはいえ、特に時間の流れを感じるわけではありません。楽曲はどれも同じような表情です。時間の中に音が一つ一つ丁寧に並んでいます。目を見張るクライマックスがあるわけではありませんが、間の一つ一つに耳が研ぎ澄まされていきます。

 音の方も、楽器を弾いているというよりも、一音一音が鳴っている感じ。残響も計算されていて、そこに音がかつてあった気配のようなものが、重要な役割を果たしています。

 ファンシーなタイトルの「『進まなければならない』夢見ながら」はバイオリン2台による楽曲です。バイオリンの弓は毛と棒の部分をどちらも使って、強烈な音からかそけき音まで鳴っています。

 この音楽は演奏会で聴くのはつらそうです。まわりの人の息遣いでさえ邪魔になりそうです。LPレコードではノイズが入りますし、CDならではでしょうか。デジタル録音をデジタル機器で再生するのがよさそうです。

 何とも頑固な贅沢さ。ノーノの政治的なメッセージは何なんでしょうか。私もブルジョワジーであれば、もっと胸を引き裂かれるような思いで受け止めることが出来たのでしょうか。

 そこのところはよく分かりませんが、ドイツの演奏家たちの奏でるこのストイックな音響作品は、私の四畳半を重厚なホールへと変えてくれました。頭がキーンとします。

Luigi Nono : Polifonica-Monodia-Ritmica, Canti per 13, Conciones a Guiomar, "Hay que caminar" Sonando / Ensemble UnitedBerlin, Angelika Luz, United Voices, Peter Hirsch (1998)