$あれも聴きたいこれも聴きたい-Jam 01 青春を感じる作品です。ポール・ウェラー18歳の作品です。ジャムは五大パンク・バンドの一つと言われていました。彼らの作品の中でも、この作品はひときわパンク的です。ライナー・ノーツもケンショーさんが熱く熱く語っています。

 パンク/ニュー・ウェーブの世相を背景にジャムを語るのももちろんよいのですが、私としては田舎者の立身出世物語第一章として、より普遍性を与えてみたいと思います。

 何といってもこの作品から行きつく先はおっしゃれなスタイル・カウンシルなわけですからね。まあ、田舎出身の私に引き寄せてパーソナルに語りたいだけですけれども。

 バンドの出身地は英国のサレー州ウォーキングです。イギリスに住んでいる頃、何度か買い物に行ったことがあります。ショッピング・センターがあるだけの典型的な郊外の街。日本で言えば、大学のない筑波っていうところでしょうか。

 ちょっと車で遠出すればいくらでも出会える、大都市からそれほど離れていないステレオタイプな地方都市です。別にパンク時代じゃなくても、若者はさぞ退屈していることでしょう。

 イギリスでは結婚式だとか誕生日などにアマチュア・バンドを雇って演奏させることがよくあります。ジャムはそんなオケイジョンに演奏するアマチュア・バンドの一つでした。いかにもフラストレーションが溜まりそうですね。

 そんなバンドが18歳でロンドンに殴り込むわけですから、必要以上に気負うのは当たり前です。都会に対する憧れと怯え、自分への自信と不安、そういったものがごちゃまぜになった複雑な気持ち。都会という巨大な敵を前にしたポール・ウェラーです。

 「俺はウォーキングからやってきた。俺のことを偽物だというけれど、俺の心は街にあるんだ」とは、本作の中の「サウンド・フロム・ザ・ストリート」の一節です。私も18歳で東京に出てきただけに、気持ちはよく分かります。涙がちょちょぎれますね。

 もっともそんな気持ちというのは自分の影に怯えるようなものだと気づくのに時間はかかりません。都会だからといって、全然違う人々が住んでいるわけではありませんから。ですから、その瞬間を真空パックしたようなこの作品は貴重です。20歳でデビューしていればもう違う表情だったと思います。

 このジャムのデビュー・アルバムは、全体に才気あふれる田舎のアマチュア・バンドがせいいっぱい気負って演奏している風情がとても気持ちよいです。モータウン、ザ・フー、ビーチ・ボーイズと結婚式向きの顔も見せながら、ベースもドラムも手数が多く、はやる気持ちは高速ビートでもまだもどかしいといった風情。

 当時、多くの若者が感情移入したのもよく分かります。自分もその一人でした。青春ですね。

In The City / The Jam (1977)