$あれも聴きたいこれも聴きたい-面影ラッキーホール02 ♪会えなくなって二月過ぎてなおさら募る恋心~♪。いえ、他意はありません。♪あ、な、た~のむねに~♪

 暴力的に歌詞を聴かせるバンド、面影ラッキーホールの新しいアルバムです。ほとんど解釈の余地のない直截な物語をくっきり歌うので、嫌でも歌詞に耳を奪われてしまいます。しかもそれが面白い。

 たすきの煽り文句は「X-RATEDノワールファンクバンド"O.L.H."。故・吉本隆明氏をして『この人はうますぎるほどの物語詩の作り手だ』と言わしめたストーリーテリングと、小学生の替え歌レベルのメロディライン、幾多のバイショーをこなしてきた演奏力が織りなす敬虔なる不謹慎」です。

 煽り文句ですよ。それなのに「小学生の替え歌レベル」って面白いですね。自虐的というか何というか。でも確かに、昭和歌謡のメロディーがいろいろと思い出されます。例として、先行シングルの「おかあさんといっしょう」をPVでご紹介します。どうです。私は「みずいろの手紙」と「風立ちぬ」のタイトルを思い出すまでに半日かかりました。

 糾弾しているわけではありません。そんなことは全然気にならない。昭和歌謡の佇まいを同時期のソウルに乗せてファンクしているので、もの凄くなごみます。私の血となり肉となっている素材を絶妙に料理して頂いて感謝している次第です。

 前作では「ゴムまり」を聴いて心に傷を負いましたが、今回はこの「おかあさんといっしょう」ですね。最初に聴いて何とも複雑な気持ちになりました。一瞬、深読みかと思いましたが、本人たちのインタビュー(WEBマガジンVOBO)を読むと正解だったようです。深い深い物語です。

 彼らは、同じインタビューで「アルバムを通したコンセプトなんてものはない」けれども、「何か一貫したテーマのようなものを感じて下さる方がいるんだとしたら、それは『on the border』というギリギリのところに立つ人達を書こうという意識にあるんじゃないかな、と思います。」と語っています。

 「そしてギリギリのところに立っている人達を取り上げようとした時に、まず一番最初に接する社会としての『家族』にその問題を求めざるをえないんじゃないかなって思うんです。」と。なるほど。歌詞の物語はすべて性に絡んでいて、性の射程はやはり身の回りですから、濃密に家族が絡んでいます。

 そんな中で、一曲目の「コモエスタNTR」と最後の「レス春秋」は、中年夫婦を描いて秀逸です。NTRって初めて知りました。「寝取られ」の略称なんですね。レスはもちろんレス。身も蓋もない話なので、こんなん家族の前で聴けません。

 彼らは「まぁ何度も言っていることですが、我々は受注発注系なんです。自分の中に溢れる何かがあって音楽を作っているというのではない」そうです。まあそうでなければここまでしっかり物語は書けないでしょうね。

 ここでの「wet」の「いろはす」や、「ベジタブルぶるーす」の近藤マッチへのオマージュのように、自分でタイアップを発注して悪のりすることも多いようですが、実際、「くちにだしてね」は「曲は一青窈さんから頼まれて作り、詩は『BeeTV』さんから発注を受けて作ったものなんです」ということです。

 ことさらに信念を貫く態度で発注する側の気持ちも分かります。それでも、出来てきたものを聴いて青くなったりするんでしょうね。聴いている分にはいいですが、自分の会社の責任となると一歩も二歩も引いちゃいますからね。

 さて、相変わらず濃いファンクを繰り広げる面影ラッキーホールですが、自らは、バンド活動春秋を「
初期衝動の青年期、自分を対象化していく中年期、死へと向かっていく老年期」に分けて、今回のアルバムを中年期の終わりに位置付けています。

 ということで、次は老年期に向けて新たな展開がありそうです。私としては、こういうアルバムをあと2,3枚出してもらっても嬉しいのですが、新展開は新展開で楽しみです。

On The Border / 面影ラッキーホール (2012)