$あれも聴きたいこれも聴きたい-Gabi Delgado 「猥褻」というキーワードとともに私の記憶の中にとどまっている作品です。唐突な紙ジャケ再発で、私の記憶の底からも蘇ってきました。

 音楽を聴いて卑猥だと感じるのは、歌詞がエロな場合と音が卑猥な場合があると思います。前者は直截なので、万人が同じように感じると思いますが、後者は聴く人一人一人の人生が反映されるので、結構意見が分かれるものと思います。

 フロイト的な分析をされると困りますが、私は、声、ベース、ブラス。これですね。この三つがうねうねと絡み合うと猥褻を感じます。

 ガビ・デルガド・ロペスはスペイン生まれのドイツ育ち。セックス・ピストルズに衝撃を受けて、パンクを始めた世代です。彼の場合は、20歳の時に、ドイッチュ・アメリカニッシュ・フォロインドシャフト、訳すと独米友好協会、約してDAFを結成します。ドイツのニュー・ウェーブの最重要バンドの一つです。

 DAFは紆余曲折を経てガビとロベルト・ゲールの二人組になりました。彼らの作品は素晴らしいものばかりでした。紙ジャケ再発を切に望んでいます。

 それはさておき、このアルバムはDAFが活動を休止した直後に発表されたガビの初ソロ・アルバムです。ガビさんはボーカルの人です。太い低音ボーカルがかなりエロい。しかも、ジャケットを見て頂くと分かりますが、相当ゲイっぽいです。そもそも二人組のDAFはかなりゲイ・マッチョ風のバンドでした。エロさ倍増ですね。

 この作品はヴァージン・レコードから発売されましたから、日本でもLPが発売されています(よね?)。私もその時に日本盤で買ったような気がします。だんだん自信が無くなってきましたが。それで、その時にはジャケットに観葉植物の影が映っているとばかり思い込んでいたのですが、紙ジャケ再発で見ると、これはフラメンコかサンバのダンサーでした。ノーマルなエロですね。

 それで、音はラテン・テクノ・ファンクとでも言っておけば、感じは分かってもらえると思います。ドイツのスタジオ・ミュージシャンと一緒に作られていて、有名どころではカンのメトロノーム・ドラマーのヤキ・リーベツァイトが6曲中4曲に参加しています。ヤキは珍しくティンバレスも叩いています。それから、プロデュースはジャーマン・プログレの巨星コニー・プランクです。

 これまでDAFはドイツ語の歌にこだわってきましたが、ここではガビは英語もしくはスペイン語で歌っています。そして、アルバムはいきなり「セックス・ゴッデス」という直截なエロ歌から始まります。シングル・カットされた「ヒストリー・オブ・ア・キッス」と続いて、名曲とされる「アモール」。そっち系の歌ばかりですね。

 ここから先がB面で、「ヤング・ライオン」、「ヴィクティム」、「ミストレス」と、やっぱり何となくそっち系の歌です。こういう歌をねっとりとした低い声で歌うガビさん。パッツンパッツンのエロいベースと、汗を感じるブラスが絡み合って、何とも卑猥です。

 しかし、ここでのビートはなかなか素晴らしく、今のクラブ系の音楽の中に混じっていてもさほど違和感はありません。発売当時はそれほど注目されませんでしたが、ダンス音楽が隆盛を極めるにつれて評価を高めてきたアルバムです。

 ガビさんもハウス以降に息を吹き返しましたしね。

 いいアルバムですよ。

Mistress / Gabi Delgado (1983)