$あれも聴きたいこれも聴きたい-Carreras, Domingo, Pavarotti 正直に申しますと、モノマネ御三家などと同じような企画なのかと思っていました。申し訳ありません。や、凄い凄い。これは凄いレコードですね。ギネスブックによれば、クラシック界史上最大の大ヒット作品だそうです。

 調べてみると、いつもお世話になっている英国では1位になっています。全世界では500万枚は売れているようです。しかし、もっと凄いのはこのコンサートの視聴者数で、全世界54か国で放送されて、8億人以上が見たと言われています。

 8億人の中には残念ながら私は入っていません。そんなお祭りに参加できなかったというか、そんなお祭りがあることすら、今の今まで知らなかったのは痛恨の極みです。

 スペインのホセ・カレーラス、プラシド・ドミンゴにイタリアのルチアーノ・パヴァロッティという世界を代表するオペラ歌手3人の競演です。時は90年7月7日、舞台は古代ローマのカラカラ帝の浴場。オーケストラはフィレンツェ五月音楽祭管弦楽団とローマ国立歌劇場管弦楽団の2つ。それをインドの巨匠ズービン・メータが指揮しています。豪華ですね。

 ローマで行われたサッカーのワールド・カップの決勝戦前夜というヨーロッパが燃え上がっている日です。残念ながら、イタリアは準決勝で負けてしまい、決勝は西ドイツとアルゼンチン。結局、西ドイツが優勝しました。

 オペラ界のトップ歌手三人が競演するなど、考えられもしなかったことだったそうです。しかし、恐らく、ライブ・エイドとかそういうロック界の試みにも刺激を受けていたんじゃないでしょうか。こういう企画もできなくはないと皆が思い始めていたのでしょう。

 この企画は、ホセ・カレーラスの白血病のための財団への資金集めのために企画され、ドミンゴとパヴァロッティは、ライバルでもあり、友でもあるカレーラスが白血病から無事に生還したことを祝うために快諾したということだそうです。いい話ですね。

 私にとってオペラは最もハードルが高い世界です。見たこともなければまともに聴いたこともない。見たいと思ったこともありません。全く遠い遠い世界の出来事だと思っていました。いわば天上世界の出来事。しかし、何でしょうこのCD。全く現世の作品でした。もっと言えば下世話な世界。

 ロックやジャズの方がむしろ人を選ぶかもしれません。こちらの方が万人に楽しめる世界ですね。エルビスのショーや美空ひばりの歌謡ショーを思い浮かべました。超一流のエンターテインメントです。

 三人の歌声は、さすがに超一流だけあってうまいですね。うまいというのも何だかおこがましいですが、他に表現のしようもありません。全く淀みのない力強い声の力にただただ圧倒されます。本当に素晴らしいです。全体に5分くらいの長さのボーカル曲が並んでいて、最初は三人が入れ替わり立ち代わりボーカルをとり、最後の方は三人が一緒に歌います。

 曲もメドレーになっていたり、バラエティーに富んでいて飽きさせません。それにキャッツの「メモリー」やウェスト・サイド・ストーリーの「マリア」なんていうミュージカル曲もあります。驚きました。楽しいです。

 それにメータの指揮するオーケストラがいいです。インドの映画音楽のオーケストラのような音、ミュージカルの音です。ボーカルに寄り添うように流れ、ボーカルを引き立てることだけを考えたかのような演奏です。

 何百年の伝統は伊達じゃありませんね。感服いたしました。結構この後も聴きそうな予感がします。私のようなオペラ初心者には最適な作品だと思います。

Carreras Domingo Pavarotti in Concert / Jose Carreras, Placido Domingo, Luciano Pavarotti, Zubin Mehta (1990)