$あれも聴きたいこれも聴きたい-Quartetto Italiano バイオリンを聴くと納豆を連想します。糸を引いたような音ですからね。ありきたりな連想であろうかと思いますが、まあ想像力なんてそんなもんです。

 私は関西の片田舎に育ったので、納豆には縁がありませんでした。そもそも知らない。納豆と言えば甘納豆しか知らないわけですから、関東の人は納豆を朝ごはんに食べると聴いて心底驚きましたね。しかも卵と混ぜる。えーっ!

 大たい東京に出てくるまで納豆を見たことがありませんでした。さて、ここでまたバイオリンが出てきます。バイオリンの実物を見たのは東京に出てきてからでした。田舎にはバイオリニストはいなかったんですよ。ちゃんちゃん。

 そういうわけですから、バイオリンを前にすると心が落ち着きません。その上、ロックを中心に音楽を聴いていると、やはりバイオリンはマイナーな楽器ですしね。そんな私のバイオリン観が変わったのは、カントリーのフィドルではなく、インド古典音楽でのバイオリンの暖かな雄姿でした。

 と、心の準備を終えて、今日はハードルの高そうな弦楽四重奏団の演奏を聴いてみることにいたしました。バイオリン2本にヴィオラ、チェロ。逃げ場なし。ピアノもトランペットもティンパニーも助けに来てくれません。真向勝負、がっぷり四つ。

 しかも、ドビュッシーとラヴェルが半分ずつ。聴き分けまでしなければなりません。クラシックいつまでも初心者の私にはなかなかの難題でした。

 しかし、意外と楽しめるものですね。ドビュッシーのねばねばした曲とラヴェルのきびきびした曲との対比は面白かったです。情感に訴える要素をもつドビュッシーと知的なラヴェルというこれまた紋切り型の比較が際立ちます。

 とても面白く感じたのはラヴェルの方の第二楽章。ここではいつもの納豆音ではなくて、粒粒のスタッカート音が活躍します。やればできるじゃん、バイオリン。というわけで、何だかとても若々しくて青春を感じました。いい音です。

 歳をとって、全体に人間が丸くなった分、弦楽器の起伏が体の表面や内臓のカーブに寄り添うようで、気持ちよく聴くことができました。なるほど、クラシック・ファンという人たちはこうやって楽しんでいたんですね。

 ところで、中野雄先生によれば、「フランス者と、フランス音楽家、特に室内楽団は売りにくいんです」と音楽事務所の社長さんたちがおっしゃっているそうです。これは、現代人の音の好みがモーツァルトからベートーヴェンあたりのウィーン古典派にチューニングされているからだということです。なお、後者は作曲家の柴田南雄さん説です(クラシックCDの名盤)。

 ドビュッシーやラヴェルなんて有名だと思うんですが、そんなもんなんですね。でも確かに室内楽団のCDなどは数が少ないようにも思えます。このイタリア弦楽四重奏団はかなりの名手のようですが、あまりCDを見かけません。

 弦楽四重奏初体験は意外と芳醇な経験になりました。おそらくこの楽団の質の高さによるんでしょうね。最初から名盤を聴くと、次が怖いです。

Debussy:String Quartet In G Minor, Ravel:String Quartet In F Major / Quartetto Italiano (1966)