$あれも聴きたいこれも聴きたい-Magical Power Mako マコだとか、ミコだとか、チャコだとか、そういう愛称を聴くと背筋に寒気が走ります。「愛と死をみつめて」の歌とかねえ。分析してみると、おそらく私の幼少時代に何かトラウマがあるのかもしれません。

 それに、マジカル・パワーですよ。マジカル頭脳パワーなんていう番組もありましたね。何といいますか、私の好きな方向とは正反対のような気がします。

 初めてマジカルパワーマコの名前を聴いた時には、そんな名前の印象から、勝手にチャコとヘルスエンジェルスの類のお茶の間アイドル・グループかと思ってしまい、聴かなかったことにしてしまいました。このデビュー盤が発売された74年と言えば、まだ洋楽を聴き始めたばかり。それに当時、日本のロックは田舎の中学生の耳には届かなかったんです。

 そういうわけで、もの凄く遠回りをしてしまいました。このアルバムを初めて聴いたのは、紙ジャケが発売された2003年、発売から30年が経過していました。あとデビューが4年遅れていれば、恐らく私は彼の音楽に没頭していたのではないかと思います。もったいない話です。

 マジカルパワーマコ、本名栗田誠は天才ミュージシャンです。日本のミュージシャンで最も天才らしい佇まいをもった人です。中学の時に、天からの使命感を感じて音楽の道に迷いなく飛び込んだといいます。中学を出て音楽活動を始めるやいなや、16歳ですでにNHKの放送用音楽を手がけるまでに至ります。凄いですね。

 そしてこれは彼が18歳の時に制作されたデビュー盤です。人を食ったジャケットですね。一人で制作したわけではなく、当時の仲間たちも参加しています。その中で、ひときわ目を惹くのは魂の司祭灰野敬二
、クレジットはけいちゃんです。あの重鎮灰野敬二をけいちゃん呼ばわりできるのはマコさんだけだと思います。

 録音は73年です。私には、同年に「チューブラー・ベルズ」を20歳で発表したマイク・オールドフィールドの姿がマコさんに重なってみえます。機材の発達した現在と違って、宅録の世界は大変な苦労を抱えていた時代です。そんな時代にしこしこと超絶の宅録を続けていた二人です。

 ただ、マコさんのこの作品はテープを使った楽曲などもあるものの、基本は仲間とのコラボレーションとなっていて、「チューブラー・ベルズ」とは随分表情が違うんですけどね。どこか共通点を見つけようとしている牽強付会な私がいます。

 かなり実験的な曲が並びますが、難解というわけではなく、どこか飄々とした風情があって、なかなか楽しめます。愛人の歌う歌もあれば、けいちゃんらしい歌もあります。外国語の語りもあれば東北弁もある。けちゃけちゃ歌うだけの曲もあります。

 そんな曲の中で、オーラスを飾る曲が「空を見上げよう」です。セルフ・ライナーによれば、「ぼくの15の時の曲。空を見上げようと言いたかった」ということです。♪空を見上げよう♪とけいちゃんが優しく繰り返す歌で、後に繰り返し再演されることになります。湯浅学さん曰く「マコの心の中心部近くで鳴るリフレインのような曲」。その通りだと思います。

 私は、その「空を見上げよう」のたゆたうような演奏の部分が大好きです。空から降ってくる天上の音楽なんだと思います。しかし、マコさんは、「メロトロンは面白い楽器です。もう二度と使いません」と書いています。どう解釈すればよいのでしょう。

 全体に、歌と演奏は実験的ながら、強烈に70年代前半を感じさせるところがあります。私はそこを含めてとても面白いと思いました。

Magical Power / Magical Power Mako (1974)